会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2009年4月号掲載)
ブライダル一筋に40年。今ではどこの結婚式場でも一般的になっている入場時のエレクトーン生演奏やキャンドルサービスの演出を始めた男。欧米風の一軒家を貸し切るゲストハウスウエディングをいち早く手掛け、業界では「ミスターブライダル」と呼ばれている。常に時代の変化を先読みし、新しいスタイルの結婚式を創出するのが、ベストブライダル塚田正由記社長の信条だ。「1つの成功に囚われることなく、常に新しいことに挑戦する組織を作ること」と経営哲学を語る。(聞き手は本誌副編集長 徳永健一)
会社型からカップル主体へ
問 この10年ほどで結婚式のスタイルも多様になりましたが、どのような背景があるのでしょうか。
塚田 これまでの結婚式では、会社の上司に仲人を頼んで披露宴を行うのが一般的でした。自分が務める会社の社長に仲人をお願いするのがステータスであり、会社型の結婚式と言えます。終身雇用が保たれていた時代は、社員も会社に対する帰属意識が強く、式には親戚、家族、親しい友人、それに会社関係の人を呼んでいました。しかし、90年代に入り会社のあり方が変わりました。バブルが崩壊したこともあり、企業ではリストラが進み、雇用関係に変化が起ったのです。現代の若い人は会社に対する帰属意識も希薄しており、カップル主体での結婚式のニーズが増えてきました。毎日、お客様と直接会い、話をしていると社会の変化が見えてきました。このように雇用関係の変化が、ブライダル業界においても新しい価値観を生み出しました。そのひとつが一軒家にお客様を招いて式を挙げるゲストハウスウエディングです。
問 ベストブライダルを創業する経緯を教えてください。
塚田 今でこそベンチャーという言葉がありますが、私の若い時代にはそんな風土はなく、独立という考え方はありませんでした。会社の中でお客様に喜んでもらえて、もっと利益を出して、その利益で再投資して、もっと多くのお客様に喜んで頂きたいという気持ちを持っていました。
ハウスウエディングを知ったのは前職の結婚式場に勤めていた頃、米国での結婚式に参列したときです。ホテルや式場とは違い、一軒の邸宅を貸し切ってお客様を招き、参加者はドレスやタキシードで着飾り、ダンスを踊って式を楽しんでいる。その華やかさに衝撃を受けました。帰国後、日本でも同様の結婚式を企画、提案しましたが時期尚早と受け入れてもらえませんでした。当時、結婚式の需要は伸びていたので、会社はあえて新しいことにリスクを取る必然性がなかったのですね。しかし、これまでの日本にはないハウスウエディングを実現するという夢は大きくなるばかりでした。そんな折、お世話になった社長が退任されたので、それを機に独立をしました。
私の味方はお客様
問 チャレンジ精神に溢れていますね。独立にあたり不安はありませんでしたか。
塚田 私は昨日までと同じことが好きではない性分ですね。今日を新たにし、明日また何か新しい生き方をしたいと思っています。1つくらい成功したからといって、未来永劫に成功するわけではない。次回もっといいものを作って、人に喜んでもらいたいと思っています。
前職では、いつも挑戦者でした。しかし、どこの会社もたいてい保守的で体制派ですから、「考えている暇があったら、仕事しろ」と相手にされませんでした。私は変革が大好きですから、色んなにチャレンジしました。そのつど、体制派から、蹴飛ばされ、つぶされ、頭をたたかれました。日本では出る杭は打たれてしまう。
しかし、そんな事は構いませんでした。私の味方は会社ではなく、お客様だったからです。上司の顔を見て仕事するのではなく、お客様の顔を見て仕事しなければ、未来はありません。もっと楽しく面白い生き方があれば、チャレンジしようと考えました。少しの変化を少しずつ大きくしていくのが好きなんです。不安よりもやりがいがありました。新しいサービスを考えるのは創造性があり楽しいですね。
先日のオバマ新大統領の就任演説は素晴らしかった。自信を失った米国民に代替エネルギーの開発や新しい政策を示し、勇気を与えました。どこの世界でもビジョンを示すリーダーが必要だと思います。
問 横浜の新店舗には80億円の大型投資をしますが、その狙いは何ですか。
塚田 この不景気になんでそんな無茶な投資をするのかと思われるでしょう。結婚式で利用していただいたお客様に対して、数年後にあなたの結婚式場はなくなり、その場所はショッピングセンターになりましたでは、社会的に悪だと考えます。自分の結婚した場所がなくなるのは、企業家としてお客様に責任が取れていない。
子どもさんが生まれた際に、「お母さんがやった結婚式場だよ」と言われたいし、三世代に渡って利用してもらいたい。こう考えるのは、経営者として当たり前のことです。そのためには、土地も建物も買って、自力でやる方がいいと判断しました。
昨年から世界的な経済不況になりました。ブライダルも保守的になっています。あと5年も経つと、若い人が親を大切にしたいと思う人が増えてくるでしょう。親御さんと同居できる社会構造になり、親と相談しながら生きる社会になると予想しています。すると、親も一緒に喜べる結婚式を考えるようになります。
業界でも最大手の立派な式場でと考えるはずです。大型店は、資金調達力、キャッシュを持っていなければ出来ません。老舗の式場は広い土地と、企業としてのブランドを持っています。私たちもそうあるためには、地域の一番店になっていくことが必要です。私の目指すところは地域の一番店です。安定を求めるお客様にとっては好評になるはずです。
過去を振り返ると、やはり一番店しか残らない。キャッシュフローを生み出す力があるときに、大型投資をするのはそのためです。
採用した若者が未来永劫に活躍する場をつくっておきたい。私の次の世代になっても、社会から信頼されて生き延びていく企業体になっていくでしょう。おかげさまで、50億円のキャッシュフローを生み出せるようになりました。80億円の投資を恐れているようでは、次のステージはありえません。チャレンジだとは思いますが、リスクだとは思っていません。
青山の新しいシンボル
問 10年後のベストブライダルはどうなっていますか。
塚田 私が以前いた結婚式場は、実際に親子三世代にご利用頂いていました。親子二代、三代にわたってご利用いただいている老舗は、力を持っています。そういう式場の一角になって行くべきだと考えています。そのためには、ある程度の規模と、風格を持たないとこのグループには入れません。
おそらく今年は当社の結婚式にご出席いただくお客様は全国で50万人になります。サービスが悪ければ口コミで広がり、良ければ良いなりに広がる。いい加減なことはできませんね。我々は、世の中ではまだベンチャーかも知れませんが、ブライダル業界の中では、もうベンチャーの域をこえている。ある意味では、ベンチャーの要素を残しつつ、ある意味では、どっしり構えて社会的に信頼されるような企業でなければならない。
現在では、一件貸し切り型の小さなゲストハウス、青山にある中型店、浦安や大阪にある6000坪くらいの大型店のように大中小のバラエティーに富んだ品揃えを持っています。その式場で行うブライダルは、常に時代の新しい風を吹かせたいと思います。イノベーション、価値創造を生み出す気持ちは今も昔も変わりません。
問 いつも経営をする上で心掛けていることはありますか。
塚田 日本では挙式と披露宴がベースになっています。この二つが今までにないような、想像を超えるサービスをしたいと考えています。「青山の教会も素敵ですね」と言ってくれる方が非常に多くなりました。「セントグレース通り」と呼ばれるように街のシンボルになりました。青山にチャペルを創ったように、いつも社会の中でインパクトがあるものをしたい。
ブライダルも外観は一緒でも、中身はお客様に驚いていただけるようなものを作り出します。新しいサービスを生み出す力が社内になかったら、5年でマーケットから忘れ去られてしまうでしょう。
真似をするのではなく、自分たちで悩み考えて、世界に目を広げてみるのです。何かを生み出すことは、生き甲斐があり、やりがいがあって楽しいのです。
よく周りの人に「社長、疲れるでしょう」と言われますが、私には何が疲れるのかわかりません(笑)。ふと寝ているときにアイディアが浮かんできますよ。
「社長、昨日までと言っていることが違いますよ」と、社員に言われますが、朝令暮改は当たり前だと思います。より良い道があればそちらに進むでしょう。ですから80億円の投資が、今は異常だとわれても、もしそれが結果的にうまくいったら正しかったと言われるでしょう。
人格の形成
問 今までで苦労されたことは何ですか。
塚田 やはり一番苦労しているのは、人の問題だと思います。新卒を採用してから、一人前に育てるのには3年という長い時間がかかります。お客様にサービスを提供する職業ですから、サービスに上限なんてありません。時代と共に、サービスレベルは上がっています。しかし、お客様の要求レベルはさらに上がっています。それに応えるスタッフを育てることは、本当に大変です。
問 特にブライダルの接客は熟練された技能と配慮が必要なのでしょうね。
塚田 その通りです。今年の私のテーマは「人格の形成」にしました。去年までは、気配り、心配りのように相手の気持ちを見抜くことを大きなテーマにしていました。しかし、見抜くだけではなく、人格を形成していかない限りは最高のサービスの提供はできません。
教養を身につける、視野を広げる、言葉遣いをきれいにするなど、取り組むべきことは沢山あります。社員一人ひとりが自分の人格を形成するという強い意志を持たない限り達成できないことです。
企業作りは、まさしく人作りです。人作りには、やはり教育にお金をかけ、時間をかける。人間としての生き方まで理解してもらえるように、努力していきます。ですからゴールのない、果てしない挑戦ですね。
この取組みと企業の成長のバランスが合うと、急成長から緩やかな成長になっていくと思います。急成長してきたベストブライダルという会社は、売上げ300億円という1つの大きな通過点を超えるところまできました。これからは急成長ではなくて、中身のともなった緩やかな成長になっていくかと思います。緩やかに常に上昇志向で、止まることがない企業体にしていきたい。
問 今後の夢についてはいかがでしょうか。
塚田 今私たちは、新しいウエディングの世界を作ろうとしています。それは、結婚式と披露宴が終わったあとの二次会です。結婚式に呼ばない人たちが40?50人はいるはずです。私たちがお世話しら新婦はウエディングドレスで出席できます。披露宴で使ったお花もそのままお使い下さい。司会進行演出もやります。お客様に喜んでもらうことで、見込み客ができます。循環型のウエディングだと私は思います。二次会には未来の花嫁も多くいます。お友達も、花嫁を見たら結婚式をやりたくなるでしょう。このように潜在ニーズを作るのです。これが21世紀の私の考えです。ブライダルはリピーターがないと言われてきましたが、そんなことはありません。「結婚式っていいね」と言ってもらえるファンを作りたい。自分たちで作らなくて、誰が作れるでしょうか。考えることは、本当に楽しいですよ。
