会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

(企業家倶楽部2013年6月号掲載)
ウォーターサーバーを使って富士山麓の天然水をワンウェイで宅配するサービス「クリティア」を展開するウォーターダイレクト。社長の伊久間努は、この3月の株式上場をテコに、「宅配水のネスレ目指す」と水ビジネスの可能性に挑む。(敬称略)
シリコンバレー型の企業
2013年3月15日、宅配水ビジネスで躍進するウォーターダイレクトが、東証マザーズに新規上場を果たした。アベノミクスで久しぶり市場が活気づいているのもあるが、公募価格(1200円)の2.3倍となる2760円の買い気配で終えた。市場の高い反応に社長の伊久間努は上場にこぎつけた喜びを噛みしめる間もなく、次なる成長戦略に頭を巡らせた。そして、この3年半、ひたすら戦略を実行し続けてきた日々を思い起こしていた。
この会社の成り立ちは「シリコンバレー型の企業」と語る伊久間。それはどういうことか。
ウォーターダイレクトが本格的にスタートしたのは2006年10月のことだ。そのとき伊久間は企業再生事業を手掛けるリヴァンプに席を置いていた。
「これから水ビジネスがおもしろい」という事業アイデアは、当時リヴァンプにいた玉塚元一(現ローソン社長)と、機関投資家の藤野英人、そして日本テクノロジーベンチャーパートナーズの村口和孝ら3人が考えたものだ。これに初期のメンバーとして岩谷産業の人間が加わり、スタートした。伊久間はそのときリヴァンプで、玉塚の下で事業計画を作成していた。
その事業計画の実行人として2007年にリヴァンプから送り込まれたのが伊久間である。
ユニークなアイデアやコンセプトに投資家が投資し、育てて花を咲かせるというやり方は、まさにシリコンバレー型。そういう意味ではウオーターダイレクトの成功は日本にはまだ数少ない事例といえる。
ではウォーターダイレクトとはどんな会社なのか。そのビジネスモデルについて伊久間は明快に語る。先行する同業他社がオフィス向け中心であるのに対し、同社は一般家庭をターゲットに新市場を創りあげている。最大の特長は製販一体型であることだ。富士山ろくにある水採取場に工場を持ち、ボトルに詰め、契約した客に宅配する。いわばダイレクト販売である。顧客の獲得も代理店方式ではなく、自社で獲得。ターゲットは一般家庭のため、百貨店や家電量販店でのデモンストレーション販売に注力、販売員は半数が自社の社員という。創業から6年間ノウハウを蓄積、今や契約者数は20万人に達している。
ウォーターダイレクトの強み
まず第1は正真正銘の天然水であることだ。今、宅配されているのはほとんどが水道水を処理、人工ミネラル分を後から加えたRO水といわれるものだ。これに対し、ウォーターダイレクトが手がける水は、富士山麓から採水したまぎれもない天然水である。富士吉田の地下約200メートルからくみ上げた水は、バナジウムを多く含み、玄武岩層で濾過され、銘水と呼ぶにふさわしい水という。
第2は配送にある。宅配便を活用、顧客の曜日、時間指定の要望に応えていることだ。一般家庭を対象としているだけに、曜日、時間指定ができるのは顧客にとってはありがたい。まさに使う側の立場に立ったサービスといえる。
第3は使い切りのベットボトルを使用、回収不要であることだ。これまでの宅配水の業界大手は、ポリカーボネート製のボトルで使用後に回収する手法が一般的だ。それに対し、同社は使い切りのワンウェイ方式だから、ローコストが実現できるという。
さまざまな差別化戦略を掲げ、家庭用宅配水事業に参入したウォーターダイレクトだが、最初はなかなか売れず、苦労したという。
まずは体験キメ細かな営業戦略
水ビジネスといえば、500ミリリットルや2リットルなどのペットボトル入りが一般的だ。しかも今はスーパーやネットショッピングの目玉ともなっており、かなり安価で流通している。こうした中でウォーターサーバーを設置しての宅配水の需要はあるのだろうか。
これに対し伊久間は明快に答える。
人は本当に暑くなると、炭酸水や甘いドリンクではなく、シンプルな水に行きつくという。従って家庭で購入されている炭酸水やコーヒーなどのドリンクを水に置き換えると、費用は安上がりとなる。しかも富士山のミネラルをたっぷり含んだ天然水となれば、客の心は惹きつけられる。実際飲んだらそのおいしさに納得、小さな子供を持つ親を中心に顧客が増えていった。
販売方法も地道な手法だ。家電量販店や百貨店でのデモによる試飲販売を徹底。まずは飲んでいただくことに力を入れた。興味を持った客にウォーターサーバーでの宅配水のシステムを説明、納得いただき契約していただく。冷水とお湯が好きなときに飲めるこのサーバーは「あると便利」として、普及し始めている。ペットボトル12リットルで1785円、一般家庭だと1か月の使用量2.5?3本で約5000円程度となる。
このビジネスモデルはソフトバンクが手がけたブロードバンド回線ビジネスを真似したと伊久間。サーバーを無料で貸し出し、宅配で水を供給するビジネスは似ている。一度設置すると解約率は驚くほど低いという。他の業界の成功モデルを導入するのもリヴァンプ出身の伊久間ならではといえる。
こうしたキメ細かな戦略を確実に実行、実績を積みあげてきたからこそ短期間でここまで成長してきたといえる。玉塚や藤野、村口らが考えたアイデアを確実に実行するのが伊久間の仕事。まさにプロの仕事請負人といえる。
宅配水のネスレ目指す
昨今、ミネラル水の世界消費量は増加傾向にあり、アジア諸国の存在感は大きい。そこで伊久間は早くからアジア市場を見据え、2011年台湾に事務所を設置、2012年からサービスを開始している。台湾でビジネスモデルを調整し、将来はアジアに広く展開、水の品質・美味しさにおいて、「アジアNO・1企業」を目指すという。
設立6年というスピードで株式上場を果たしたが、上場で得た資金をもとに、まずは生産規模を倍増、PETボトル製造の内製化を進めていくという。これにより製造コストを削減。またサーバーも改良し、リビングにフィットしたカッコいいものに進化させていきたいと語る。
そして目指すはネスレのエスプレッソマシンのように、カッコいいハードに、水を定期的に供給していく、宅配水のネスレを目指すと意気込む。日本はミネラルウォーターの消費量はまだ低く、拡大の余地が大きいと睨む伊久間、2020年には売上げ1000億円、利益100億円という大きな目標を打ち出した。経営請負人伊久間努の夢はまだスタートしたばかりだ。

PROFILE
伊久間 努
株式会社ウォーターダイレクト代表取締役社長
1967年生まれ。早稲田大学を卒業後92年伊藤忠商事㈱に入社。海外駐在、審査部における不良債権処理、経営企画部でのM&A 等の経験を積む。2003 年デル㈱入社ダイレクトマーケティングを経験、 05年㈱リヴァンプ入社。07年ウォーターダイレクト取締役。09年12月、代表取締役社長に就任。