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【頑張るしなやか企業】スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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スープ専門店「Soup Stock Tokyo」で躍進

スープ専門店「Soup Stock Tokyo」で躍進

(企業家倶楽部2008年8月号掲載)

首都圏を中心に約50店舗を展開するスープ専門店「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」が、若い女性を中心に人気を集めている。同店を運営するスマイルズは、創業者で社長の遠山正道が「働く女性を応援したい。女性が一人で入れるお店をつくりたい」という想いから三菱商事の社内ベンチャーとして立ち上げた。1999年に1号店を出店後、着実に成長を遂げ、2008年3月期の売上高は約39億円を達成。08年2月末には遠山が三菱商事他の出資株式を全て買い取る形で独立し、新生スマイルズとして歩み始めた。(文中敬称略)

働く女性を応援する無添加のスープを提供

 スマイルズは「無添加、食べるスープ」をコンセプトに、スープ専門店「スープストックトーキョー」を約50店舗運営している。

 スープストックトーキョーの最大の特長は、自然の食材の美味しさを活かしたスープだ。化学調味料や合成着色料・合成甘味料、保存料などを使用せず、店内でも手間暇をかけてひとつひとつ丁寧に作っている。

 例えば、魚介の出汁にハーブを効かせた人気のスープ『東京クラムチャウダー』。スープベースの調理工程では、白身魚を骨ごと砕いたり、香味野菜と煮込んですりつぶしたりする。「これは職人泣かせのスープで、調理が複雑でとても手間がかかります。小骨と身を分ける作業をくりかえして、やっと旨味が出せます。だからこそいい味が提供できるのです」。スープストックトーキョーの生みの親で、同店を展開するスマイルズ社長の遠山正道はそう語る。

 他にもロシアの代表的スープを洋食スタイルに仕立てた「東京ボルシチ」や「オマール海老とわたり蟹のスープ」など40種類以上のスープを用意し、店頭では毎週8種類のスープを週替わりで提供している。カレーとのセットメニューなども揃えるが、メインはあくまでもスープだ。外食産業ではスープは添え物というのが常識だが、スープストックトーキョーではスープをメインメニューとして位置づけている。  スープ単品(250cc)の価格は610円と高めの設定。だが、自然の食材の美味しさを追求したスープは味にこだわる顧客の心を見事に掴んでいる。「特に我々がターゲットとする女性のお客様に好評」と遠山は言う。実際に、東京・御茶ノ水駅前にある店舗を覗いてみると、昼時などのピーク時は常に満員で、テイクアウトする顧客の姿も目立つ。ごはんやパン、カレーと組み合わせたセットメニューもあり、平均の客単価は約850円になる。

「スープストックトーキョーは、ファーストフードに位置づけられますが、男性向けの『早い、安い』に軸が置かれやすい従来のジャンクフード型とは違います。我々は主に女性向けのファーストフードとして、味やサービスにこだわった『食の空間』に力を入れています」

 その想いは店内のデザインにも表れている。店舗設備に使用する素材では、木材やガラス、ステンレスなどで、素材そのものの質感を重視。内装にはよけいな着色を施していない。「シンボルマークとなるロゴでさえ墨一色なのは、色とりどりのスープこそが空間を彩る作品だから」という。遠山自身、小さい頃から絵が好きで、水彩画やイラストをはじめ、タイルアート等も手がけ、これらは雑誌や本の表紙などに採用されたり、個展も開いている。そのデザイン力が店内の設計にも活かされた形だ。

「ファーストフードは、今では特に都市生活者には欠かせない生活の一部となっています。だからこそスープストックトーキョーでは、美味しいスープやホッとできる環境を用意し、お客様を内側から温かくできる存在でありたい」

「スープのある一日」の企画書ができるまで

 スープストックトーキョーの生みの親である遠山正道は、1962年東京生まれ。祖父の遠山元一は日興証券(現日興シティホールディングス)の創業者で、父親の遠山直道は副社長と、経営者一族の家庭環境で育った。「父が仕事に出かける時は家族全員がエレベータホール前でお辞儀して見送るほどの厳格な家庭だった」という。72年に祖父、73年に父が亡くなるなど、当時小学生だった遠山は辛い思いも体験した。「ただ私は兄と姉とも仲が良く、母も穏やか人だったので、穏やかな性格を引き継いで育つことができた」と振り返る。

 85年に慶應義塾大学の商学部を卒業後、三菱商事に入社した。建設部門や情報産業部門などで商社マンとしての道を歩み、97年に日本ケンタッキー・フライドチキン(KFC)に出向する。これが転機となった。

「KFCで働く中で、ある日、フッと思ったんです。首都圏で働く女性がひとりで落ち着いて食事ができるお店がないなって。昔から独立したいという気持ちもあったので、それなら『働く女性を応援したい。女性が一人で入れるお店をつくりたい』と思ったんです」

 そこで遠山は、スープストックトーキョーの前身となる企画書「スープのある一日」を約3カ月かけて書き上げる。「スープのある一日」は約22ページに及び、ブランドのコンセプトとして、その趣味や趣向などが詳細に設定された架空の女性なども登場する。「ささやかだけれど丁寧に作られた食事」、「一瞬だけれど気の利いたおもてなし」、「一杯の温かなスープが、体も心も温かくする」、「大切な人を応援するような空間を提供する」などなど。そんな想いからイメージが膨らみ、具体的なアイデアが次々と生まれていく。それがスープストックトーキョーの企画につながった。さっそくKFCの首脳陣にこの構想を提案したが、遠山のアイデアはことごとく否定された。「スープが主力?それで腹いっぱいになるのか」「温かいスープじゃ、夏に売り上げが立たない」などなど。

 だが、誰もが否定するようなところにチャンスは潜んでいる。遠山はそう考えた。何度も練り直し、対策を考え、KFCや三菱商事でプレゼンを繰り返す。その結果、「とりあえずやってみろ」と、ゴーサインが出た。

三菱商事初の社内ベンチャーへ
 ところが、そこからが長かった。商品開発から出店までは1年半かかってしまう。特に問題になったのは、肝心のスープだった。日本で一番人気のスープといえば、コーンスープ。だが遠山はあえてコーンスープを提供しないことに決めていた。もっと自由に、自分たちが食べたいスープを提案したい。娘がアレルギー体質でもあり、無添加で美味しいスープを作りたいという想いもあった。

「でも当初は失敗ばかりでした。アイデアはいっぱいあるけれど、うまく作れない。例えば、『イカスミとひじきの黒いスープ』。味はいいんですが、口の中が黒くなってしまうんです。これでは誰も食べてくれませんよね(笑)」

 スープの開発を進めながら、同時に出店計画も考えていた。1号店は絶対に失敗が許されない。確実に集客が見込める場所に出店する必要がある。そこで当時話題を呼んでいた東京・お台場のヴィーナスフォートに1号店を出すことに決めた。「女性を中心に圧倒的な集客力があったから」と遠山はいう。この戦略が当たった。

 99年8月25日に、第1号店がオープンすると、予想をはるかに上回り、長い行列ができた。「オープン当日は、レジから30名ほどの行列が途切れることがなかった」と遠山は振り返る。大繁盛したが、スタートの3カ月間店長を務めた遠山は一カ月で5キロも痩せた。「この経験のおかげで、今でも店長のみんなの苦労が理解できる」と笑って語る。

 その後、2000年2月に会社組織としてスマイルズを設立し、三菱商事初となる社内ベンチャーとして本格的に立ち上がった。資本金は1億5000万円。三菱商事が大半を出資したが、遠山も親から相続した株を売り、13%分の約2000万円を出資した。

 本社は東京・青山の6畳2間の和室からスタート。創業メンバーはたった3名で、店舗の運営、商品開発、仕入れ、物件開発、店舗デザインなどすべての業務をこなし、「猛烈な忙しさだった」と遠山はいう。そうした努力もあって、複合商業施設「イクスピアリ」に出店した2号店も好調。「これはいける!」と自信を深めた。

 勢いに乗って、東京・溜池山王店を皮切りに、アークヒルズ店、赤坂通り店と立て続けに3店舗を出店。ところがこの多店舗展開が裏目に出る。溜池山王店が大幅な赤字に陥ったのだ。

「出店場所と規模を明らかに見誤ってしまった」と遠山。20坪×3階建ての規模でスープ専門店に見合わない大型化に加え、土日は人がいなくなるビジネス街に出店してしまったのである。2000万円の自分の出資金もあっという間になくなり、300万円の赤字を記録する月もあった。「『このまま赤字が続けば、俺はどうなるだろう』と、この時初めてお金の恐怖を味わった」と振り返る。

 一方で、他の小規模店舗が月に600?700万円を売り上げ、成果を上げ始めていた。「約5坪程度の小さいお店が大健闘したのです。スープストックはスリム化したほうが成功すると確信しましたね」

今年2月にMBOで独立

 その後は小規模展開を貫き、駅ナカや商業施設など集客が見込める地域に集中的に出店。店舗が増えるごとに、口コミで知名度も高まり、黒字化が定着。2008年3月期の売上高は約39億円を達成した。

 今年2月には、MBO(マネジメントバイアウト。経営陣が自ら調達した資金で親会社など株主から経営権を取得すること)を活用し、遠山が三菱商事とオリエンタルランドの保有するスマイルズの全株式を譲り受け、独立した。親会社の意向に左右されず意思決定を速め、事業展開を加速させるのが大きな狙いだ。

 スープストックは1999年の第1号店をオープン以来、直営店とフランチャイズチェーン(FC)形式で出店し、現在は首都圏を中心に約50店舗を展開するまでになった。今後は各地方へも出店先を広げていく方針だ。「年間10店前後を出店し、数年後には100店舗体制を築きたい」と遠山。自社サイトやヤフーショッピングでスープを販売するネット通販も好調。また、今年の6月には、日本航空との間で機内食ブランド「ON THE SHIP」を立上げ、ハワイ路線往路でコラボメニューを展開し始めた。ただし各方面に展開が広がっても、規模や売上を第一に追いかけるつもりはない。

「世の中に愛され続けるお店を1つずつ丁寧に作り、長く愛されるスタンダードになりたい」と遠山は語る。

「スマイルズの企業理念は、生活価値の拡充です。21世紀の生活者の日常を豊かにすることがミッション。これからは食にとどまらず、衣住の品質も見直し、『世の中の体温を少しあげる』事業を手がけてみたい。その結果、社名もスマイルズとしたように、世の中の笑顔を増やしていけたら嬉しいですね」(藤田大輔)

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