会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2010年10月号掲載)
株式の上場に至るまでに、誰に、いつ、いくらで、どのくらい、どのような方法で株式の移動・増加をしていくかを計画し、最終的に株式上場時の株主構成や予想株価を描くことを「資本政策」といいます。
事業の拡大のために新株発行による増資を行うと、発行済株式総数が増加し、その分だけ創業者の会社への支配比率が低下します。
一度行った資金調達はリセット出来ませんから、次に述べる点に注意して、あらかじめ慎重に計画しなければなりません。
・株式分割などを利用して、株式上場時の株価を流通し やすい価格にする。
・株式上場時の株価の一株あたり利益(EPS)や、 株価収 益率(PER)は、類似業種の企業を参考にする。
・ベンチャーキャピタルの保有株数は上場時における発行済株式数の30パーセント程度に抑える(バイオなど資金需 要が大きい事業では50%程度まで)。
・ストックオプションなどの潜在株は上場時における発行済 株式数の10パーセント程度に抑える。
・提携関係のある事業会社などに株式を保有してもらう ことによって、安定株主を確保する。
ベンチャー企業の資金調達では、普通株式でなく種類株式の利用も検討するべきです。ベンチャー企業では、汗を流しながら事業を進めていく創業者と、リスクの高い投資を行うベンチャーキャピタルという性格の異なる株主が同居することになるため、異なった内容の株式によって両者の利害の調整を行うニーズがあるからです。
会社法では、種類株式として、次に挙げる9項目について他の株式と異なる内容を定めることができます(会社法108条)。これ以外の合意事項、たとえば財務内容の定期開示については、種類株式の内容とすることはできず、投資契約に定めることになります。種類株式は、契約当事者の債権的な合意ではなく、会社の定款の内容になるため、投資契約よりも効果は強力です。
① 剰余金の配当
② 残余財産の分配
③ 株主総会において議決権を行使できる事項
④ 譲渡による取得につき当該株式会社の承認を要すること
⑤ 株主が当該株式会社に対してその取得を請求できること
⑥ 当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得できること
⑦ 当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること
⑧ 株主総会や取締役会の決議事項で当該決議のほか種類株主総会の決議を要すること
⑨ 種類株主総会において取締役または監査役を選任すること(但し、委員会設置会社及び公開会社を除く)
これらのうち、通例ベンチャーファイナンスで利用される項目は、 ② 残余財産の分配、 ⑤ 株主が当該株式会社に対してその取得を請求できること、 ⑥ 当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得できること、 ⑧ 株主総会や取締役会の決議事項で当該決議のほか種類株主総会の決議を要すること、などの項目です。
ベンチャー企業では、金融機関からの借入金 (負債)の比率が低く、また完全に破綻にする前に清算に至るケースもあるため、投資したベンチャーキャピタルとしても、 ② を使って、清算時の残余財産分配について優先権を得ておくことにはメリットがあります。
また、ベンチャーキャピタルとしては、会社が一方的に増資を行って持分が希薄化することがないように、増資や合併などの重要事項については、 ⑧ の拒否権を要求したいところです。
創業者側としては、ベンチャーキャピタルにこのようなメリットを与える代わりに、1株あたりの株価を高くして引き受けてもらって、会社の支配比率を維持することができます。

Profile
古田利雄
ベンチャー企業の創出とその育成をメインテーマに、100社近い企業の法律顧問、上場会社の役員として業務を行う傍ら、ロースクールで会社法の講座を担当している。平成3年弁護士登録。東京弁護士会所属。