会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

(2009年10月号掲載)
(文中敬称略)
面白いウェブサイトを数多く生み出し続ける
「とにかく面白いサイトやサービスをたくさんつくる。そこに全身全霊で取り組んでいます」。カヤック代表取締役の柳澤大輔はそう語る。
同社はウェブサイト制作を主力に展開するベンチャー企業だ。これまで200以上のサイトを制作してきた。そのポリシーは、オリジナリティー。他にはない独自なサービスを生み出すことを信条としている。
例えば、絵画の販売サイト「アートメーター」は、価格の設定がユニークだ。絵画の販売価格は「1平方cmで5円」と面積で決まる。1000平方cmのサイズなら5000円で買える仕組みで、人気の画家になれば、そのレベルに応じて1平方cm当たりの販売価格が上がっていく。現在、プロやアマチュアを問わず、約3000名の画家が作品を発表。すべての絵画がオリジナルの一点もので、プロの画家の絵もあれば、3歳の子供の絵もあり、多種多様なラインナップになっている。閲覧や購入は、サイト上はもちろん、カヤックが運営する東京・自由が丘のリアル店舗でも可能だ。
家を建てたい人が注文住宅の設計で建築家から案を募集するサイト「ハウスコ」は、インターネットでの住宅設計コンペの先駆け的な存在で、登録建築家は2700名以上と日本最大級の規模を誇る。「ハウスコ」を通じてこれまでに100件以上の家が建ち、日本建築大賞や東京建築賞などの受賞作品も生まれている。
他にも、音声データを投稿・公開するサイト「こえ部」、投稿サイトの「Twitter」でアイデアを増幅させるサービス「おもいついったー」、ありがとうの気持ちを投稿するサイト「サンクス」、ケータイでキャラクターを育てる「ポケットフレンズコンチ」など、数多くのオリジナルサイトを生み出している。さらには鎌倉本社の1階で飲食店のどんぶりカフェ「bowls」も運営する。
「僕らは、量を重視しています。数にとことんこだわります。どこよりも案を出して、どんどんつくって、そのすべてを公開する。失敗は恐れず、何十回も何百回もつくり続けて、はじめて新しいことが生まれると考えているからです」
ミクシィやモバゲータウンのような大ヒットと呼べるほどのサービスはまだないが、カヤックの数々のサイトはカンヌ国際広告賞、東京インタラクティブ・アド・アワード入賞など、多数の受賞暦を誇る。「これは量が質を生んだ結果だと思う」と、柳澤は語る。今年は新規事業チームが年間で99個のサービスをリリースする見込みだ。とにかく数で勝負する。その中からヒットが生まれる。この考え方はカヤックの経営理念にも表れている。
経営理念で日本一の会社
グーグルやヤフーで「経営理念」と検索してみると、面白い。カヤックのサイトが検索結果で一位に表示される。その後には、SBIホールディングス、東芝、シャープなど錚々たる企業が並ぶ。「経営理念では日本一の会社になれた」と柳澤は胸を張る。
カヤックの経営理念は「つくる人を増やす」だ。世の中につくる人をひとりでも増やすことを目指す。
「つくることは、人を楽しませ感動させることができる。そして他人の喜びが自分の喜びになる感覚と経験が得られる。それが社会貢献を本業とする企業の使命と喜びです。だから僕らは、つくる人を増やしたい」
そう語る柳澤は、1974年2月19日香港生まれの若手経営者。カヤックの代表取締役は、柳澤をはじめ、貝畑政徳(現CTO)、久場智喜(現CCO)の3名体制である。柳澤は慶応義塾高校時代に貝畑と出会った。2人は慶応義塾大学環境情報学部に進学し、久場と出会う。3人で遊んだり、合宿をしているうちに、「起業して、何かを一緒にしよう」という話になった。
だが、当時は事業プランもなければ、社会人経験もない。そこで「各自が様々な体験を積んで、2年後に会おう」と決め、大学卒業後は別々の道を歩んだ。柳澤はソニー・ミュージックエンタテインメントに就職、貝畑は大学院に進み、久場はアメリカへと放浪の旅に出た。
そして2年後の98年8月、3人は合資会社カヤックを設立する。資本金は3万3000円。小さく始まったが、仕事は順調だった。インターネットの創世記でもあり、制作依頼は次々と舞い込んだ。自社サイトの制作・運営だけではなく、他社のウェブサイト制作を請け負う事業も展開。ユニクロや森ビルなどの企業サイトをはじめ、漫画家の藤子・F・不二雄の公式サイト、キリンビバレッジのお茶「生茶」のキャンペーンサイトなど、受託部門も数多くのサイト制作を手がけている。ここで自社のオリジナルサイトで培ったノウハウが活きた。
「たとえ自社サイトのサービスで失敗や撤退があったとしても、そこで得たノウハウは残る。量が質を生むスタイルは次の良質なサービスを生み出す原動力になる」と、柳澤は分析する。
自社サイトの開発・運営事業と受託事業の両輪は、ビジネスモデルとしても適切だった。自社サイトは収益化するまでに時間がかかるが、オリジナルのサービスを生み出し、独自性をアピールすることができる。さらに自社サイトを他社に販売するというユニークなビジネスモデルも持つ。総務情報のポータルサイト「総務の森」をオフィス向け通販のカウネットに売却するなど、サイトをまるで商品のように売っている。一方、受託事業は制作面ではある程度制限はあるが、クライアントからの収入が一定規模で早く得られる。
このオリジナルサービスと受託制作のバランスを取ることで、同社は着実に成長を遂げていった。2005年1月には株式会社化し、未上場企業ながら業績もウェブサイト上で公開。売上高は05年度1億1400万円、06年度2億5700万円、07年度5億400万円、08年度7億700万円と増収が続き、09年度は16億円を見込む。利益面では、07年度の経常利益が5415万円を達成。08年度は先行投資などで607万円の赤字だったが、今後は安定的な黒字化を目指し、上場も視野に入れている。
サイコロ給、スマイル給
同社のオリジナル性は、組織運営やオフィスなどにも表れている。その代表例が、サイコロ給だ。毎月基本給にプラスされるボーナスで、給料日前になると全社員がサイコロを振る。基本給×サイコロの出目%がボーナスになる。例えば、基本給が30万円の人がサイコロの6を出したら1万8000円が追加で支給される仕組みだ。「サイコロを振る時、ドキドキして、毎月愉しいでしょう」と、柳澤は笑う。
もうひとつオリジナルの給料がある。スマイル給だ。毎月ランダムに割り振られた社員のよい部分を他の社員が評価し、給料明細に記載する。給料明細を開けると、自分への褒め言葉が書かれている。仕事にまじめに取り組んだ「仕事直給」、チームの思いや気持ちをうまく汲み取る「阿吽の呼給」など、人を褒めるセンスやネーミングも見えてくる。イントラネットで全社員のスマイル給も公開している。
「支給額は0円。でもお金以上の価値がそこにある。何より笑顔が生まれます。今後も社員の笑顔が絶えない会社をつくっていきたいですね」