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【ベンチャー企業の法務心得 11】クレア法律事務所弁護士 佐藤未央

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

その11 「委託契約」の法的性質について

(企業家倶楽部2011年12月号掲載)

 システム開発に関する契約書など、日常的なビジネスにおいて「業務委託契約書」という言葉を目にする機会は多くあると思います。この「委託契約」とはどういった法的性質の契約なのでしょうか。

 実は、法律上、「委託契約」そのものについての定めはなく、一般的に、「請負契約」または「委任契約」として取り扱われます。請負契約と委任契約のどちらに該当するかは、委託する業務の性質によって決まることになります。

 請負契約と委任契約については、民法に定義されています。

 請負契約とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」契約です(民法632条)。つまり、請負契約の目的は、仕事や物を完成することにあり、この仕事や物が完成したことに対して対価としての報酬が発生します。

 一方、委任契約は、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」契約です(民法632条)。つまり、委任契約の目的は、知識や労力等のサービスを提供することにあり、この提供したサービスの割合に応じて対価としての報酬が発生します。なお、民法上は、委任契約において、特約がない限り、受任者は委任者に対して報酬を請求することができない(民法648条)とされていますが、商法上、報酬請求権が定められており(商法512条)、また、契約上も報酬請求権を与える場合が一般的です。また、厳密には、委任契約は「法律行為をすること」を委託する契約であり、法律行為以外の行為をすることを委託する場合は「準委任契約」と呼ばれることになります(民法656条参照)。

 医師に診察をしてもらった場合を考えてみましょう。この場合、受診者は医者に対して診察料を支払いますが、これは病気を治してもらったことへの対価ではなく、診察というサービスを提供してもらったことへの対価です。この受診者と医師との間で締結される契約は、準委任契約の典型例のひとつと言われています。

 最近の大規模なシステム開発案件においては、開発フェーズによって契約を分け、要求定義・外部設計などの「上流過程」を委任契約とし、内部設計・プログラミングといった「下流過程」を請負契約とするケースもよく見られます。また、システムコンサルティング会社と委任契約を締結して上流過程を委託し、ソフトウエア会社と請負契約を締結して下流過程を委託するなど、開発フェーズによって契約の相手方を異ならせるケースも見られます。

 また、印紙税との関係でも、契約が「請負契約」なのか「委任契約」なのかで取り扱いが大きく異なります。請負契約書は、印紙税額一覧表の第2号文書「請負に関する契約書」に該当し、課税文書となり、収入印紙を貼る必要があります。一方、委任契約書は、原則として印紙税が課税されず、収入印紙を貼る必要がありません。

 業務委託契約を締結する際には、契約の目的が何か(仕事の完成が必要なのか、サービスを提供してもらえば足りるのか。)を十分検討し、当該目的と契約内容が一致しているか(例えば、仕事の完成を求める場合、契約の内容が請負契約と評価できるものとなっているか。)を確認することが肝要です。

Profile 佐藤未央(さとう・みお)

システム開発系の企業におけるシステムエンジニアとしての8年間の勤務を経た後、弁護士となる。現在は、主に、ベンチャー企業に対する会社法・金融商品取引法を中心とした法的アドバイスの実施や各種契約書の作成、労働問題などを担当している。平成19年弁護士登録。東京弁護士会所属。

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