会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2011年8月号掲載)
谷口義晴の座右の銘は「背空の陣」。自分たちの後ろには、どこにも逃げるところはない。創業者の厳しい覚悟、顧客と社員に対する強い責任が感じられる。他社にない独自性の高い製品を開発し、まず顧客に喜んでもらえれば、利益は後でついて来る。徹底したカスタム対応力が同社の特長だ。技術者が現場に赴き、センサ市場に特化。社員にチャンスを与え、経営者と同じ目線で考え、主体的に働く企業文化を育んできた。企業家谷口義晴が精魂込めて築き上げた同社の強さの秘密に迫る。 (文中敬称略)

強さの秘密1 カスタム対応力 お客様の望む製品開発
世界シェア7割と言う高い数字が示すとおり、一度掴んだお客様は絶対に離さないのが日本セラミックのモットーだ。毎朝8時30分から始まる役員全員参加の朝会はもう20年以上も続いている。
冒頭から谷口が担当責任者に質問を投げ掛ける。74歳になった谷口だが、営業の最前線の事が気になる。
「競合への対策やシェアを高める工夫はどうしているのか」
事業部の担当責任者に過去の事例を示しながら、詳細を確認していく。他の部門との情報共有も朝会の重要なテーマになっている。メーカーはどんな新しい機能を欲しがっているのか、新製品のトレンドや業界の抱えている課題など各方面の情報収集、キーマンへのアプローチが出来ているかが売上げの鍵を握る。
谷口が常に心掛けているのは、お客様を喜ばせる製品作りだ。第一に、商品を評価し、継続して取引してくれるお客様がいなければ、自社の成長はないが信条。まず先に取引先の繁栄があって、次に自分たちに返ってくると社員には教えている。
お客様が今欲しがっている製品、本当に必要な機能は何なのかを絶えず情報収集するように営業担当者には指示している。メーカーの仕様要求は製品ごとに細かいが、日本セラミックではその細かい要求にも応えられるように、社内に素材部を持ち、素材の配合から、部品の組合せ、スペック、サイズ、形状、色までも対応できるようにしている。必要とあれば、サンプルを1日で制作して、持って行く事もあった。ある時、サンプルを100個作らなくてはならず、納期を計算すると時間が足りない事が判明した。会社で歓送迎会があった日でも酒は飲まず、エンジニアは一次会の後に会社に戻り、徹夜でサンプル作製に当たった事もある。
寝食忘れてチームが一つになって問題解決に取り組む。それが、日本セラミックの伝統だ。一生懸命になってお客様のために最善を尽くす。そんな経験を通して、取引先や社内のスタッフとも気持ちがひとつになり、信頼関係構築に繋がっていくのだ。
フットワークが良く、スピード重視は日本セラミックのお家芸でもある。谷口が海外のお客様をホテルに送った後に会社に戻り、翌朝にはサンプルを持って行き、「あなたはマジシャンか!?」と驚かせたエピソードは今でも社内で語り継がれている。「誰も作れないものを一晩で作る喜びは職人冥利に尽きる」と谷口は語る。お客様に有難うと言っていただき、リピーターになってもらうことほど嬉しいことはない。
メーカーの担当者にも取引が成功し、出世してもらう。そうすると信頼関係が強固になり、必ずまた自分たちに利益は返ってくる。担当者同士の信頼関係の構築が高いシェアを保つ秘訣になっている。スピーディーな行動力と確かな技術力に裏打ちされたセンサメーカーとしての地位を確立し、今では他部門の紹介や、新製品開発の際には一番に相談をもらえる関係を築けている。
ひとつ例を挙げてみよう。現在、力を入れている自動車分野で1つのセンサが採用されると開発に3から4年、機種変更まで6から7年、保守部品としてさらに7年、合計18年という長い取引になる。良い仕事をするためには、お客様の現場に行き、常に次は何をしたいのか会話の中からヒントを探している。この徹底した顧客満足主義でカスタム対応することが日本セラミックの特長であり強さといえよう。
強さの秘密2 ニッチ市場を狙うセラミック製センサ市場に特化
セラミックとは焼き物の総称だが、家電など工業用として使われるセラミックは、6から7種類の酸化物を混ぜて焼いている。素材の配合や焼くときの温度、酸素濃度などで性質の違ったものが出来るのが特徴だ。しかし、混ぜて焼いてみないと縮みや性質がわからない世界。デジタルなキャドでは設計できない分野で、セラミック形成のノウハウ、長年の知識、データの応用力が必要な点が他社との差別化になる。
そのひとつが、赤外線を受けると電気反応を起す焦電効果で、これを利用したものが赤外線センサである。人体から発せられる僅かな赤外線も感知する。この赤外線を感知する事で、電気信号に変換し、スイッチの役割を果たす。センサは非接触で自動的に人を感知するので、家電などの製品にこれまでなかった人の目の役割を果たす新機能を加えるなど、用途が幅広い。谷口は前職時代に培ったセラミックの応用技術に特化する事で、少ない経営資源を絞り込み、ニッチ市場を狙った。
それではどんなところで赤外線センサは使われているのだろうか。最近、人が歩くと自動で照明が付いたり、人が見ていないと自動的にテレビ画面が消えたり、トイレの便器の蓋が自動で開いて驚いた経験がないだろうか。これらの製品には赤外線センサが内蔵されている。
その他には、部屋の中の人を感知して、エアコンの風向きを調整したり、侵入者がいることを知らせるセキュリティー用警報機、電子レンジや耳式体温計など、家電、セキュリティー、医療など幅広い分野で使われている。
赤外線センサとならんで同社を代表するのが、超音波センサである。電極を設けたセラミックに電圧を加えると電荷を発生する。これを圧電現象といい、超音波センサはこの圧電現象を利用して、超音波を発生、あるいは外部からの超音波信号を検知する。主に、自動車のバンパーに装着されるバックソナーとして採用されている。後方に障害物がないか検知する便利なセンサである。谷口率いる日本セラミックは、市場を絞り、さらに深堀することで、他社の追随を許さない独自性を創り上げ、赤外線センサと超音波センサの分野で世界シェア7割を占める圧倒的なナンバーワン企業に成長した。

強さの秘密3 コスト意識 生産設備は自社製作
今でこそ世界的な電子部品メーカーに名を連ねるようになったが、1975年にエンジニア5人で設立した際は、資本金500万円からの船出だった。社歴も実績もない小さなベンチャーを相手にしてくれる企業は少なかった。当然のごとく、銀行はお金を貸してくれない。創業当時はいつも資金難で、資本金も数ヶ月で底をついた。無い袖は振れず、生産設備にも充分なお金を掛けられなかった。お金がなければ、頭を使うしか他はない。
「自分たちで廃品から製造設備を作製した」と谷口は言う。しかし、手元に資金が充分になかったことが、お金を使わずに工夫を凝らし、常に知恵を使う企業文化を育てた。今でも無借金経営は健在だ。
「銀行が簡単にお金を貸してくれていたら、苦しいときに借金をして、今頃は潰れていたかもしれない」と谷口は語る。また、借入金で経営をする習慣が付くと、若手が新しい企画を持ってきても、「また借金かと思ったら前向きな判断ができない」という。
創業当時、鳥取にあるエンジニアが数人しかいない小さなベンチャー企業を国内の大手企業はなかなか相手にしてくれなかった。そこで、会社の規模で評価するのではなく、技術力を評価してくれる海外企業に目を向けたところ、米国のセキュリティー機器メーカーが谷口の開発した独自性のある赤外線センサの性能を評価し、取引をしてくれた。日本セラミックは創業間もないときからマーケットを世界中に求めるグローバル企業に成らざるを得なかったのだ。
「会社を作ってすぐに国内企業が取引をしてくれていたら、国内市場で満足していただろう」。災い転じて福となす。逆境に強いベンチャー企業の成功の法則であろう。
創業当時の資金繰りの苦しさから、コスト意識が根付き、国内市場が相手をしてくれないのであれば、海外に目を向けるなど、まさにピンチが新しいチャンスを生み出している典型である。
現在でも、新しいセンサを量産するラインは、既製品を使わず、自分たちで改良して設備を作る。独自性の高いセンサを作るのに、既製品の設備では間に合わないのだ。なければ自ら作ってしまうという企業文化は、谷口が創業した当時からの会社の遺伝子となっている。だからと言うわけではないが、工場の内部は社外秘で、部外者は入れない。
以前、海外企業の研修プランにライバル企業の工場見学があり、それに応募したところ、先方の担当者に参加者リストに日本セラミックの谷口がいると分かると工場見学させてもらえなかったことがある。
日本セラミックでも国内外の大企業から発注した様々なセンサを製造している。それぞれのメーカーは凌ぎを削って競争しているため、センサを使った新機能を発売前に公表したくない。ましてやライバル企業には極秘にしておきたい。そこで、日本セラミックでもお客様の秘密は厳守であり、工場内部は公表しないという徹底振りだ。
国内市場の競争が激しくなり価格競争に入ると、1986年には中国に工場を展開し、製造コストを下げ、利益率を上げることに繋げた。2001年にはより人件費の安いフィリピンに工場を増設し、中国一国に頼らなくてもいいようにリスクを分散している。国内で他社に真似できないような独自性の高い製品開発を行い、一方で海外に工場を展開し、人件費を抑え製造コストを削減し、高い利益率を確保する努力をしている。
強さの秘密4 営業と技術が一体化したナンバーワン戦略
営業戦略も明快だ。エアコンや自動車など業界のナンバーワン企業へアプローチし、担当者に新しいセンサで今までにない新製品が実現できる事を企画・提案し、採用を勝ち取る。すると翌年から2番手以下のメーカーは、追随するしか手がない。どこのセンサが使われているか調べればすぐ分かることなので、黙っていても注文が入ってくる。それぞれのメーカーに新規で営業するのとでは比較にならない位、労力を使わなくて済む。また、メーカーは企業に合わせた肌理の細かい開発ができるのは日本セラミックしかないことをよく知っている。戦わずして勝つ。王道の営業戦略を取っている。
センサが人を感知してエアコンの風向きを変える。効率よく電力を使用することで、無駄が省け、省エネにも貢献する。これまでになかった発想で新しい機能を提案できるのが日本セラミックの営業の特長だ。自動車メーカーもドライバーが運転する際の快適さを求めている。バックで車庫入れする際にバンパーに埋め込まれた超音波センサが壁や隣の車との距離を知らせてくれたら、何度もハンドルを切り返す必要がなくなり、面倒な車庫入れも楽である。
既存の製品に人間の目や耳の役割を果たす機能が追加されると快適な生活を演出できるようになる。日本セラミックの経営理念は、「真価のある製品を社会に納め人類に貢献する」である。自分たちが開発した製品が世の中で使われている姿を見たときほど、技術者にとって嬉しい瞬間はない。
既存のマーケットにもまだまだセンサを活用した新しいビジネスチャンスは広がっている。エアコン自ら人の居場所や床の温度を感知し、最適な風を送ることが可能になり、効率よく部屋を温めたり、冷やしたりすることで電気の無駄使いも減らせるようになった。家電量販店などでは各メーカーが新機能で凌ぎを削る中、省エネ対応は店頭の営業マンもセールストーク的にお客様に勧めやすい。省エネを意識する時代の流れにも合致し、センサ付き製品の売上げは追い風となっている。照明器具も消費電力の意識の高さからLEDの普及が進んでいる。センサ付きの照明器具なら、さらに無駄を省ける。
では、どうして日本セラミックではこのような提案営業が可能なのだろうか。それは、営業担当者と一緒に技術担当者が同席し、メーカーの技術担当者と現場で綿密な打合せが出来るからである。技術者が同席する事で、求められる製品の仕様を共有でき、製造コストなどの見積りも早い。社内に戻ってからは生産担当者も加わり、量産化の際の意見も合わせてプロジェクトが進んでいく。改めて部門間の調整は必要なく、それぞれの視点から問題解決をチームで行う。
この社外に対するフットワークと社内の部門を越えたチームワークの良さがスピーディーな行動力と製造コスト削減の源になっている。大手企業の縄張り意識が高い組織では真似の出来ない芸当だろう。顧客のためなら部門を越えて火の玉集団になる。日本セラミックの伝統だ。「この案件は絶対取るぞ。ライバルには渡さんぞ」、鳥取県民の粘り強さが遺憾なく発揮される。

強さの秘密5 金勘定ができるエンジニア集団 権限委譲で人材育成
職人気質が強いエンジニア集団に、プロジェクトの企画、立ち上げから仕事を任せることによって、設備を作る先行投資額、素材の仕入れ、人件費といったコストの部分と製品が完成し、見込まれる売上げ、利益、販売年数といったお金のマネジメントの概念を持たせる。
お客様との企画打ち合わせから、商品を開発・量産し、お客様に納品して現金が振り込まれるところまで一気通貫で任せることによって、責任も発生し、喜びも感じられる。まさに経営者の視点を持つことが求められる。
谷口は自らの創業を経験し、主体的に考え、お金がない中で工夫を凝らし、エンジニアとして良い製品を開発し、お客様に喜んでもらえるのが一番やりがいのある仕事だということを知った。社員にも体験を通して知ってもらいたいのではないか。社長視点で物事を考える社員を育てるには、創業者と同じ経験をしてもらうのが確かで、一番近道である。経営者と同じ目線で、金勘定が出来るエンジニア集団。これが日本セラミックの強さである。
「とにかくやってみなさい」が谷口の口癖だ。前向きな先行投資であるなら、数億円単位の設備投資であっても即決する。ベンチャーでは、リスクを取らないのが最大のリスクとなる。
2006年、現常務執行役員の谷田明彦が数億円にものぼるフィリピンへの工場建設を提案した際は、「その倍でやったらどうだろうか」と谷口が逆提案したこともあった。谷田を始め、社員の士気は上がった。2011年、そのフィリピン工場も手狭になり、増設された。
「社長の先見性、事業を考えるときの論理性は誰も真似が出来ない。まさに超人です」と谷田は谷口の印象について話す。1996年、初めてヨーロッパ出張へ出かける日に谷口から手渡されたメモを今も大事に取ってある。
「自分の為、日セラの仲間の為に多くの糧を得る様、悔いなき旅を 気をつけて・・・。」平社員だった自分にまで気遣いを忘れない社長の人情に感動したことを昨日のことのように覚えていると言う。
今はあまり怒らなくなったが、以前は厳しいスパルタ式だったという。情の厚い谷口は何でも本音で社員に話す。取締役の中川健二も雷をよく落とされた一人である。何が原因だったのか今では覚えていないが、谷口が放った「君はこの会社を潰す気か!」という言葉だけは鮮明に覚えている。叱った後はフォローを忘れないが、いつも危機感を持って仕事に取り組むことを教えられた。中川が中途入社すると、谷口はその日の内に「後は頼むぞ」と一言、顧客ファイルを机の後ろから取り出して渡した。始めは面食らったが、仕事を思い切って任せるのが谷口流人材育成法だ。
「やる気があったら働き甲斐のある会社です」と執行役員の岩﨑克志は日本セラミックの魅力について話す。何も動かない人より、チャレンジして失敗する人の方が得るものが多い。今日の失敗を糧にできる人材を望んでいる。
「何とか花開いたね」、開発から、試作、量産と苦労を重ね、やっとの思いで製品化され、社会で日の目に当たったとき、谷口から声を掛けられた。ずっと自分たちの仕事を見ていてくれたことが分かる。担当者として、「感無量の瞬間だ」と岩崎は話す。
とかく自分の研究ばかりに視野が狭くなるエンジニア。日本セラミックでは、営業の現場に立会い、お客様の視点に立って製品開発を考え、高い要求にも応えながら、製造コストも抑え、しっかり利益を確保する意識を養われる。
社長と同じ目線で考え、金勘定ができるエンジニア集団を育てているのが、日本セラミックの強さである。地方発の世界的ものづくりベンチャー、日本セラミック。あらゆる製品に同社のセンサが内蔵される日は近い。