MAGAZINE マガジン

Vol.36【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

花を育てるようにベンチャーを成功させよう

(企業家倶楽部2014年1・2月合併号掲載)

 人類の歴史と、会社創世記

 もともと暗い暗い世界の中で、宇宙が大爆発をして広がり、その塵の中から、やがて銀河系が生まれた。その中に、地球という惑星が出来た。地球は最初、火山が爆発してマグマが真っ赤になっていたが、やがて海と陸が出来た。海の中に生物が生まれた。

 最初は小さな単細胞だったが、遺伝子の進歩によって長い時間をかけて徐々に、生物は進化した。植物は太陽の光で光合成が出来るようになり、動ける動物も生まれ、地球は海も陸も、動植物だらけになって行った。宇宙から飛んできた大隕石が、地球が割れんばかりに衝突して、恐竜がいっぺんに死滅したりした事もあった。

 やがてその中から、高度な哺乳類が生まれ、その中から脳の発達した猿や人が生まれた。人は火と言葉を操って、集団で狩りをしたが、やがて農業で町を作るようになった。宗教や家族制度も整っていった。町では様々な商品やサービスをそれぞれの人が分業するようになり、職業が生まれた。町では税を取り立てる政府が生まれ、国が出来た。国と国はそれぞれに国境を競い、戦争が起き、人同士が殺し合いをした。結局、鉄と火薬と交易の力を持った国が、世界で力を持つことになった。貨幣は大きな仕事の準備(資本)を可能にし、商工業を可能にし、交易を盛んにし、船を発達させた。文字と印刷が、情報の記録と伝達を容易にし、教育もうまれた。

 国は最初国王によって運営されていたが、やがて民衆が経済力を持つ時代になって、市民革命によって民衆が政府を選び、運営されるようになった。さらに産業革命によって、動力による機械生産が始まった。同時に、大きな株式会社を経営するようになった。人々は、投資家に事業計画を説得し、株を発行して資本を集めることで巨大な生産設備を持つことが出来るようになり、人を雇用し、経費の支出や売り上げを記録する会計と監査制度を持ち、取締役会で会社を運営しながら、株主総会で投資家に事業成果を報告するようになった。

 ベンチャー創世記と歴史的事業機会

 株式会社の便利さを知った人は次々と新しい技術に基づくベンチャー企業を創業し、人々は、様々な新しい価値を持つ商品やサービスを消費するようになり、経済が成長していくと同時に、人々の生活も変わって行った。衛生的な水と、医療の発達だけではなく、経済生活が豊かになるとともに、社会全体で養える能力が増加したことによって、人類の人口も増加した。

 自動車と飛行機は、地理的な距離を縮め、電気はエネルギーを遠くまで運び、夜を明るく照らし、遅くまで人々が活動できるようになった。コンクリートによって大きな建物を建築できるようになり、道路や橋やトンネルも出来るようになった。生産方式や、輸送の方法、通信方法もイノベーションと技術革新で変わって行き、より費用の掛からない、環境に優しい方式に進歩していった。

 さらに、人々はCPUとメモリによってコンピュータを進歩させ、小型化した電話をネットでつなぎ合うことで、スマホになり、人々はコミュニケーション能力を大きく高めた。今では、テレビすら、デジタル化され、CPUとネットで接続される時代となった。

 人々の新しい価値を実現する事業機会は、無限に広がり続けている。現在も、次々に、新しい技術の変化や、生産方式の変化、消費人口の変化や人々の暮らしの変化などによって、新しい商品やサービスに対する需要が、次々と生まれ、また、それを提供する新しい会社が生まれ、事業拡大への投資が続いている。それを生み出す冒険家がベンチャー起業家であり、そこに投資する投資家がベンチャーキャピタリストである。つまりベンチャーとは、新しい時代の事業機会に対して、歴史の中で先回りして供給の準備をし、時代の巨大な需要が生まれるとともに、設立してあった会社が大発展する、という社会現象である。

 ベンチャーの種をまこう

 ここで、事業機会の歴史の変化の中でベンチャー起業家の成功を、その因果関係がよく分かるように、森の中で花が咲くまでの物語に例えて説明しよう。学生など、会社や事業や経営の全体性がよくわからないという人が多いので、工夫してみた。この物語に沿って、会社経営の成功を観察したり、起業家となってゼロから組み立ててみると、より豊かに観察出来たり、うまくいくように思う。

 最初に、「種」を蒔こう。この種はあなたであり、あなたはベンチャー起業家である。種は、無限の未来の可能性を秘めている。すべての出発点は、あなたであり、あなたの人生がしっかりとした長旅に耐えられるものでなければ、発展は難しいだろう。体は健康が良い。小さい時には保護者からの愛が必要だ。

 根を張ろう

 種には、水と養分が必要である。すなわち、出資者からの投資資金である。資金が必要な起業家は多い。投資を受けるために、「根」が必要だ。これが株式会社という資本組織の設立である。定款を作り、株主名簿を整える。株主総会を開き、取締役会を開催する。この根の仕組みがしっかりしていないと、植物は倒れてしまうし、ちゃんとした茎も葉も花もつかない。会社組織を作り、事業計画を投資家に説明して出資を受けよう。

 種は、十分な養分と水を根で吸って、「芽」を出す。これが創業である。創業には志が大切だ。その強い成功への意思の力が、力強い新しい芽を吹き出させる。この志には、純粋で素直な成功へ向けた気持ちが必要である。芽吹きは重要な局面だ。成功した起業家は皆、最初に会社を開始した頃の事を覚えているものだ。志の低い企業に未来はない。

 茎を伸ばし、葉をつけよう

 さて、種は根を張り、芽を出したが、この植物はどこに向かって発展させていけばいいのだろうか。つまり起業家として会社を作り、活動を開始するまでは良かったが、どんな事業を行えばよいのだろうか?そのために植物は、「茎」を伸ばす。茎は、あっちこっちと蔦のように伸びていき、事業機会を探索するのである。場合によっては枯れる茎もあるだろう。枯らすべき茎もあるだろう。茎はなかなか安定しない。起業家は、どこに可能性をかけて良いのか、迷い道に入ったような気持ちになる。しかし、ここであれこれ探索して試行錯誤して、自分がなすべき事業を発見することが重要である。後でその迷い道の途中で観察でき、体験し、発見したことが長い人生の中で、役に立ってくることはよくある。茎の伸びている方向が森の中で違っていると、どんなに頑張ってみても成功にたどり着かない。茎をどっちに伸ばすのか、「事業の選択」が、事業成功にとって決定的に重要な要素である。

 茎の伸長とともに、茎は外に向かって必死で「葉」をつける。葉はしっかり、たくさんつけるのが良いが、環境によっては少ない方が良い事もある。太陽が輝けば、葉は光をいっぱいに浴びて、光合成をするだろう。葉は従業員でもあるし、又は取引先という森の中の協力者でもある。時代という経営環境の光を受けて、葉はどんどん茂ってゆく。葉を茂らせないと、植物は発展しない。事業活動の基本は、自分や従業員や協力者の活発な活動だ。葉の活動が低調だとエネルギー不足で花はつかない。

 「花を咲かせ、蜜を出さないと、ミツバチは来ない」

 ただ、時には虫に食われ、葉を枯らす。茎の伸びた場所が悪いか、別の植物が上を覆えば、木陰となって葉が枯れることもある。場所が悪ければ、茎さえ枯れてしまう。あなたは、根から養分と水分を吸収しながら、茎をあちこちに張り、立派な葉をたくさんつけて、事業を組み立てて行くのである。茎と葉が茂った場所が、森の中で花を咲かせるにふさわしいマーケットポジションだ、ということが出来る。その良い場所を探すのだ。

 この時点で、とにかく周囲と事業の可能性のネットワークをいろいろとチャレンジすることである。事業の試運転の時期である。まだどの事業が成功するか分からない。葉が少ないと、立派な事業にならない。だから、試運転の外に向かっての事業活動は、質量ともに大量でなければならない。それが成功の秘訣だ。葉を茂らせる激しい活動の中で、成功への経営環境を知ることが出来る。

 花を咲かせよう

 根が出来、茎が出来、葉が茂ると、ようやく「花」を咲かせることが可能となる。つまり、市場への商品、つまり外に向かって、思い切り、花を咲かせるのだ。まず花は、美しくなければならない。そうしないとミツバチは来ないのだ。ミツバチが来なければ受精できない。あなたが市場に投入する商品は、思い切りセクシーなものでなければならない。販売促進と言っている。

 ミツバチが花に来て、受精が出来ると、経営では売り上げが立つということだ。そこでは価格が重要だ。どれだけの価格での販売が実現したか、それによって売り上げが異なってくる。

 蜜を提供しよう

 花は見た目だけでは駄目だ。ミツバチが来て受粉出来たら、ちゃんと花は美味しい蜜をあげないといけない。これが顧客にとっての「価値」だ。蜜すなわち価値のない花は、ミツバチから見捨てられるだろうし、ミツバチは巣に帰って、あなたの花には蜜がない事を仲間にふれ回るだろう。価値がなければ、二度と同じ顧客への売上は立たなくなってしまう。

 ここであなたが考えなければならないことが、いくつかある。飛んでくるミツバチは何匹いるのかということだ。つまり顧客の数だ。それから、何匹が何回リピートして飛んでくるのかということも大事だ。リピーターという。これを市場規模という。いくら大量に花を咲かせても、ミツバチが少なければ、成功は小さなものになる。

 実をつけよう

 花を咲かせられれば、ミツバチがやって来て、受精に成功する。受精すると、利益という果実を生み出す事が出来る。利益とは、売上から、商品を作るために使ったコストを引いたものである。実は、次の事業発展の種も生む。起業家として根を張って、事業を始めた以上、実をならせないと、存続は難しい。結果を出すことは絶対重要である。

 よく、世の中で利益が出ないで存続すら困難な状況に陥っているベンチャー企業が多い。なぜベンチャーは失敗するのか。この花の物語に照らして、その因果関係を理解するのである。実がつけられない植物の理由を想像する事から、ベンチャー企業が失敗する因果関係を理解する事が出来るだろう。

 根腐れをしているのか、茎の方向性が悪いのか、葉の活動が不活発、花が輝いていないのか、蜜がないのか、ミツバチがいないのか、と考えてみることである。森全体を見ることも重要だろう。


 著者略歴

 日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝 《むらぐち かずたか》

 1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。

 投資先にはDeNAの他、ウォーターダイレクト社が3月15日東証マザーズに上場。  

一覧を見る