MAGAZINE マガジン

Vol.39【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

21世紀日本大転換 起業Let it go解放戦略

(企業家倶楽部2014年10月号掲載)

温故知新20世紀の日本

 20世紀は工業組織社会である。19世紀の明治維新と、産業革命によって開国した日本経済は、文明開化を目指す起業家達によって、大発展した。富岡製紙工場など、繊維から始まり、20世紀に入ると、鉱山、鉄鋼、造船と工業化が進展し、同時に、ゼロ戦や核兵器を生み、世界大戦を、悲惨なものにした。戦後は石油化学とソニートヨタに代表されるエレクトロニクス、自動車産業の発展による高度成長期を経て、有数の経済大国となった。20世紀後半には、半導体のコンピュータ時代が来た。

 工業の特徴は、大量生産、プロセス標準化、オートメーション化、計画化である。大資本によって製造した、安くて大量の消費財が巨大スーパーやコンビニでPOSを通じて売りさばかれる。国民の生活も電化が進み、冷蔵庫、ラジオ、テレビが家庭に普及した。またその過程で石油など化石燃料を大量に使用する。特に戦後は安い円の下、大会社で大量生産された輸出品が、貿易収支を稼ぎ出した。

工業化社会の日本

 工業化社会の下、全国の子供は労働者として偏差値教育され、組織人としての常識を身につけ、大量に勤勉な人材を必要とする大都市の大企業へ就職する。労働者は人事と就業規則によって、定年まで働き、退職後は年金をもらって、終身雇用の価値観の中で人生を送る。皆が自分を中産階級と思い、人生は計画化出来、予算統制やPDCAで管理するのが賢明である、と考えた。

 高度成長に成功した経済社会は、1600兆円の巨大な金融資産を蓄えた結果、銀行証券業とともに金融市場を発展させてきた。一方為替の自由化などで円高が進んだ。国民の貯金は増え、使われない金融資産は、国債となって国の財政の負債を大きくした。

 東京オリンピックと万博を経て、豊かになった日本人は、子供を産まなくなり、人口構成は高齢化がすすみ、福祉と医療費が急増し、老人ケアサービス業が生まれた。1989年ベルリンの壁が崩壊して、20世紀の幻想が崩壊したが、円高時代に突入する中、バブルは崩壊し、社会矛盾をどう再最適化すればよいかわからず、ガラパゴス過剰品質で、コンプライアンスの中、日本は迷走した。
  
新21世紀適合に、発想転換必要

 さて20世紀に常識であった世界が、21世紀には時代遅れとなる。つまり、ITネット革命、モバイル革命、流通革命、バイオ遺伝子革命、医療改革、エネルギー革命の時代が到来して、知識社会を迎えたと言われる。人がSNSで情報交流し、IOT(インターネット・オブ・シングズ)という20世紀に生まれた地球上のおびただしい数の機械が、ネット連結する時代を迎えている。大変化の時代は、起業家にとっては巨大な事業機会である。

 ところが既存の大企業組織は、21世紀にはどうなるか。もちろん、大企業組織も工業的な領域において、大きな役割を担い続けるだろう。多くの若者たちが依然として有名大学から大企業を志望するだろうし、大ヒットTVドラマ半沢直樹のようなサラリーマン社会は、ホワイトカラーの生産性が低いと酷評されながらも、続くだろう。

 ただ、すでに高齢化した日本の大企業に、20世紀の輝きはない。戦後すぐに創業した企業でも、すでに創業60歳を迎えている。大量の20歳代の若者を採用した30年間発展した歴史ある大企業が、21世紀になり、終身雇用で、その30年前の大量の新入社員たちを、上層部の細くなった形状をしているピラミッド組織の中で、いつまでもポストはない。つまり、終身雇用の大企業は、常に巨大な固定費の人件費問題を抱えている。大組織は、終身雇用の幻想を若者に抱かせながら、その約束を果たせない構造なのだ。これは「終身雇用に基づく人材活用の組織矛盾」だ。組織矛盾は、組織にうつ病を生み、自殺者が出ることもある。

 では大企業が、新規事業に挑んだらどうなるか。資本力にモノを言わせ、大企業が雇用維持を目的に、イノベーションを実現しようとすれば、組織つまり職務権限の壁に阻まれ、競争力とスピードを発揮できない。過去の栄光を持った中高年従業員に頼った新規事業は、そもそも得手勝手の分からず、パッションが低く、変化の早い業界では特に失敗することが多い。

大転換の成長戦略 

 つまり、日本が経済全体で成長を維持したければ、地球全体で変化がもたらす新分野が成長しているのだから、それに挑戦する新しいベンチャーが多数、日本の中で生まれて来なければ、日本の人類体の新規領域における役割は、徐々に縮小することになる。つまり、日本が世界と同じスピードで成長するためには、日本の中で「新しい創業が日常的な当たり前」の社会にならなければならない。

 これは、日本の歴史にとっては大変な大転換だ。これまで、日本人は組織的に良く統制のとれた国民として、世界から評価されて来たし、教育の目的そのものが組織に順応する日本人を作り出そうと努力してきたからだ。それを「個性的な起業家としての日本人を大量に育てる」、という目標を持つこと自体、革命的だ。いかに困難で従来の考え方と逆さまであろうが、起業家社会の建設に取り組まない限り、日本の繁栄を維持する事は困難だ。 

 ここで組織人過剰のアンバランスな日本社会の21 世紀の過去と、決別するのだ。

「Let it go起業解放」へ
 いったん大企業に就職した若者たちも、30年後にポストがなく、会社を辞めて独立するならば、創業の勉強が必要だ。私が考える日本の成長戦略とは、「組織人として訓練されてきた日本人を、全員起業家として訓練し直す事」である。つまり、組織に服従する考え方ではなく、自分の人生の中で潜在顧客である社会に対して、商品やサービスを提供して、社会を良くしようと強く思うことである。

 そのためにはまず、日本人全員がそれぞれの個性で、組織に属さないで、起業家として、仲間を作り、事業構想する。(事業構想の三条件は、①豊かな事業機会が具体的か、②商品サービス提供能力はあるか、③実現への情熱、好きである気持ちが強いか)。個性的な事業を試行錯誤しながら生み出し、生産出来るようにならなければならない。つまり、20世紀の組織人としての日本人とまったく異なる、起業家としての生き方を学ぶことである。

 これはしかし、もともと日本人には長い歴史がある。古代から中世、近世にかけて、多くの商人が、大阪や瀬戸内海を舞台に、海賊でなくても冒険をし、様々な貿易や事業を行ってきた。本来起業家精神に富む日本人の本質が、いったん工業化社会で組織人として抑圧され、新しく21世紀の今日、もう一度起業家精神を取り戻すのだ。

 ディズニー映画「アナと雪の女王」の主題歌「Letit go」(直訳は、「元々の、あるべきままに」)の歌は、組織に悩める現代日本人らしさ解放の応援歌だ。映画の内容が、「両親から封印されていたもともとの女王の能力を解放し、真実の愛で生きる」という映画だから、現代の日本人の状況に、よく当てはまっている。私の訳を紹介しよう。
 
「Let it go」(村口訳)

 夜の雪の山、足跡も消えて

 孤立の王国じゃ、私まるで女王ね

 風は唸る、私の心みたい

 止められなかったの、必死の努力

 「誰も入れるな、気づかれるな、いつも、良い娘でいなきゃダメ、隠せ、気にするな、他人に知られるな」
 
 皆に、わかっちゃったの

 これでもう、いいの、もう、後に、戻せない

 これでもう、いいの。戸を閉め、遠く離れ

 私、気にしない、誰が何を言おうが

 嵐よ、もっと吹き荒れて。私、寒さはもともと

 平気よ。

 離れてみると、小さく感じる、可笑しいね。

 強かった恐怖が、全然わかないわ

 技や限界を、試す時よ

 何が良いのか悪いのか、規則なんてない。自由だわ。

 これでもう、いいの。 私は、風と空と一つだわ。

 これでもう、いいの。 私は、もう泣かないわ。

 ここに立ち、留まり。 嵐よ、もっと吹き荒れて。

 力が、突風となって、空中から、地面へと。

 魂が、螺旋の凍った模様を、一面に作っていく。

 そしてある発想が、氷の爆発の様に、結晶になる。

 「もう帰らない。過去は過去のものに」。

 これでもう、いいの。夜明けの太陽になる。

 これでもう、いいの。完璧な娘なんて、もうない。

 私、真昼の光の中に。

 嵐よ、もっと吹き荒れて。私、寒さはもともと
 平気よ。

新成長戦略「日本人全員起業家案」

 抜本的に日本社会が、組織社会から、起業家社会に変わるためには、思い切った政策断行が必要だ。新成長戦略として、起業家社会の構築を大目標に掲げ、方策を考えた。1.起業家教育の全国規模実施、2.源泉徴収制度廃止と、中高年者起業家教育の実施、3.独立系ベンチャーキャピタリスト投資組合の振興、の三つだ。        

 まず、起業家社会は、組織社会とは全く異なる。これを理解するには、体験するのが一番である。全国の商店街と、学校の学園祭、市区町村のフェスティバルやお祭りでの模擬店を、中高生など出来るだけ若い人に、自由にやらせ、すべて「起業体験プログラム」によって株式会社で運営しよう。会社を定款で設立して、事業計画を作成し、臨時投資家に株を発行して、資本を集め、模擬店の準備をする。仕入加工販売し、記帳しておいて決算書を作成する。会計士から監査を受けて、株主総会で事業報告し、分配案の承認を受け、解散決議をする。それで、日本人の中で、起業家としての基本的知識と考え方を身につけた人が激増させられる。

 そもそも日本の子供たちは、昔とは異なり組織社会の中でますますビジネスの本質に接する機会がなくなっているからだ。例えば、現代の子供たちは、以下のようなことが当然だと勘違いしている。

●POS発達で価格交渉したことなく、価格交渉はいけない

●自立力が身に付く前に、組織に従わされ、権限と指令がないと、動けないし、動いてはいけないと思う

●人と会わなくても、ネットで寂しくないし、愛も誠実も必要ない

●親の消費は知っているけれど、働いて苦労してる現場を知らない

●儲けることは、悪いことだと聞かされており、サラリーマンか、公務員が最も立派な生き方だ

●勝手に会社設立できないし、資本を集め、事業などいけない

 以上のような、保守的組織人的な経済観を打破する事こそ、起業体験プログラムの実施目標の一つである。

 二つ目は、サラリーマンの源泉徴収制度を廃止については、言うまでもないだろう。組織人全員を確定申告するようにさせれば、組織人として隷属するよりは、自分の年間の経済活動を自分で決算する自立感覚を身につける事が出来る。

 三つ目は、独立系ベンチャーキャピタリストの投資活動を、質量とも現在の百倍にする事である。組織型のVCが大勢であったこれまでの起業活動の最前線を、起業投資の王道である独立ベンチャーキャピタリストの活動に軌道修正する事である。
20世紀の組織型の活動を離れ、21世紀の主体的な独立投資活動を多種多様に具現してこそ、新しい21 世紀の日本の経済社会をもう一度、歴史的に創造し直すことが可能になるのだ。


著者略歴

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表

村口和孝 《むらぐち かずたか》

1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。投資先にはDeNAの他、ウォーターダイレクト社が13年3月15日東証マザーズに上場。

一覧を見る