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Vol.43【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

ハンズオン型VCを悩ます投資の自己矛盾

(企業家倶楽部2015年6月号掲載)

独立系ハンズオンVC

 現在日本で、これまでの金融機関などの人事異動を伴う組織型ベンチャーキャピタル(VC)に代わり、独立系でかつハンズオン投資のできるVCが、徐々に台頭してきている。これは歴史の必然であって、組織のない創業期のスタートアップベンチャーに投資をして支援するVCには、当然ハンズオンと呼ばれる多面的で計画的には対応できない直観的な関与を要請され、したがって、きちっと業務が設計されることを必要とされる組織型VCでは間に合わない十年間という長期的な作業を伴うからである。

 わがNTVPが、独立系ハンズオンの創業投資を旗頭として、堀場雅夫氏などの協力を得て第一号投資事業組合を設立したのが1998年であるので、日本の歴史も18年ということになる。その間一貫して、私が投資、ハンズオンの関与の最前線で活動して来たので、ここに一通り独立系ハンズオンVC投資に起こりそうな、長期の全ての歴史を振り返ることが出来るようになったのである。

投資案件の長期的関与5パターン

 創業スタートアップを応援する時、よくVC業界では、投資ステージを、シード、アーリー、ミドル、レイターと呼んで使っているが、実は定義がわかり難い用語になっている。仮にすべて創業スタートアップから投資をしたとすると、投資先のステージがどのような段階を経ていくのか、実際にやってみるといくつかストーリーがあることが経験的にわかった。創業支援の様子は、以下のA?Eの5ストーリーか、その変形である。

 A.創業して数年で事業が立ち上がり、利益が出て、組織が出来、上場するストーリー

 B.創業数年で事業が立ち上がり、損益分岐点も越えて来て、組織もできてきたが、何らかの理由で、上場やEXITには至らないストーリー

 C.創業して数年たっても事業が立ち上がらず、創業状態を抜け出せないストーリー

 D.創業して数年して事業が立ち上がり、いったん損益分岐点を超えたが、何らかの理由で業績悪化し、縮小均衡のリストラを断行し、破綻はしないが先が見えないストーリー

 E.創業して数年で立ち上がると見えた事業が大失敗をして、破綻するストーリー

 また、当然だが、この5つのストーリーに、どれだけVCがシェア(持ち株比率)を持ち投資しているか、取締役として参加しているのかどうかによって、関与の仕方とガバナンスの立場が異なってくる。

A.事業成功、利益出て上場

 DeNAなどが、その典型だ。1999年創業投資の最初、南場さんの『不格好経営』に書かれているように、大混乱と大失敗の連発で、事業は、幾多の苦い試行錯誤を経て、それでもなかなか立ち上がろうとしない。2001年春追加投資を実施することで、何とか財務的破綻を免れる。EC商店街モデルへのピボットを経て、地方行脚を断行し、ようやく赤字状態を脱する。携帯向けモバオクがヒットし、上場に向けて2003年から監査法人などの指導を受けて管理体制を強化していく。上場した会社の開示資料である有価証券報告書を作成し、証券会社の審査を受ける。2005年2月に見事上場!そこから上場経営に向かって、モバゲーが大ヒットし、大躍進を遂げていく。VCはスタートアップで投資して保有していた株式を、上場後、証券市場で売却していく。

 スタートアップ段階でハンズオンで役員に就任していて、上場後もそのまま役員で留まると、創業期にVC投資してあった株式を売却する時に、インサイダー取引規制について、厳重な注意が必要となる。上場前は、ハンズオンということで関与してきていたものが、急に関与することのままだと売却が困難になるのだ。売れないわけではないが、売るタイミングが業績開示をした後などに、限られる。「ハンズオン関与し続けて留まるのか、第三者として株式売却か」二者択一を迫られる。上場直前か、上場後ある成長段階を経てなのか、役員をいつ降り、いつ株式を売却回収するか判断に迷う。いずれにしても、いつかハンズオンを解く日がやってくる。関与が終わり、プロジェクトも過去の歴史となっていく。

 VCにとっては、途中苦労をしたが、そのかいがあって、上場してかM&Aかで回収が出来た創業投資の成功例である。このストーリーは、VC投資成功事例として、比較的本に書かれたり、ポピュラーかもしれない。

B.上場できない中小企業になる

 このストーリーは、途中まではDeNAなどと同じである。ただ上場できていない状況が続く。スタートアップから投資して、ハンズオンで関与し、試行錯誤を経て、ある程度の事業の立ち上げを実現出来た。市場環境も味方したかも知れないし、既存事業へのある程度の参入が出来たのかもしれない。売上も利益もある程度確保出来て、監査法人も入り、組織も上場を目指して充実してきたにもかかわらず、「何らかの理由」で、上場が出来ない状態が継続しているケースだ。投資も何回か行われて、資金も集め、すでにVC投資家もついて、社外取締役となってハンズオンしている。

 「何らかの理由」とは何か?私が経験したケースの一つ目は、起業家が重病又は残念ながら、他界してしまった場合がある。創業期に描いていた上場シナリオは、いったん白紙になり、相続の問題を片づけて後継の経営者が引き継ぐのだが、事業イメージを再構成して事業計画を書き直し、上場に向けて株主名簿を書き換えるのは大変な再出発のやり直しとなる。創業者の上場とは異なるいったん景色が変わった作業なので、なかなか簡単に上場できない。新しい経営者に「自分で投資を受けたわけでなく、なぜ苦しい思いをして上場して投資家を儲けさせなきゃいけないのか」などと考える気持ちが見え隠れし始めると、上場は難しい。

 二つ目のケースは、一定の売上規模まで来て、利益もある程度確保できるのだが、市場規模の限界やライバルの出現などによって、成長シナリオに乗れないか、想定できないために、上場のストーリーが描けないで、先へ進めないケースだ。せっかく準備した上場も、いわゆる長すぎる春になってしまい、スタッフがいったん退職し、監査法人の監査作業も中断して、再開が難しい。すでに利益が出ているので、追加資金も必要なく、場合によっては緊張感が薄れ、抜本的な成長に向けての対策が打てないまま、時間ばかりが経っていく。破綻もしない代わりに成功もしないから、事態はむしろ実は厄介だ。

 これには、抜本的な状況脱却の思い切った処方箋が必要だ。少々の経営の修正では状況は打開されないと覚悟が必要だ。

C.長期の創業状態(少額赤字継続)

 このストーリーは、延々とDeNAで言えば、オークションサイトをヤフオクに先を越されて立ち上げようともがいていた創業期の、苦しみと試行錯誤が継続し続けるケースだ。まず、本格的な勝負のできる商品サービスが出来上がらない。試作品のようなものが出来ては尻切れトンボになり、創業投資をしたまま、大規模な追加投資という事もなく、事業も組織も立ち上がらず、小規模な売上で赤字を継続したまま、時間が経って行ってしまう。活動を維持するためにVC資金を調達するが、一方で、出来るだけ小さな組織で最低限の作業を続けようとする。それでも挑戦の継続のためには毎年少額なりとも開発を続ける資金が必要だ。

 それをVCが継続的に出し続けると、VCの持ち株比率が加速度的に高まっていってしまう。ほとんどのVCは、あきらめて株を二束三文で売って出て行ってしまう。創業当初は高い期待に基づく株価がついて、VCも何社か検討してくれていたが、さすがに何年も立ち上がらなく赤字が続く状態だと、誰も追加投資してくれないからだ。一般的に、最後まで応援したVCが安い株価で投資(ダウンラウンド)して半分どころか、大半を保持する場合もある。ただ、VCがいくら株の持ち株比率が高まっても、赤字が継続して立ち上がらない会社は、いずれ活動を停止することになるので、活動停止となればVCにとって、株式をたくさん持っていようが、それはただの紙切れになりかねない。

 ここから事態は二通りに分かれる。一つは分かりやすくて、残念ながら休眠してしまうことである。さすがにもうこれ以上、どのVCも資金支援は続かない。最後まで応援をしてきたことの損害が最も大きくなってしまったVCとなり、なぜもっと早く損切りしなかったのか、悔やんでみても仕方がない。最後までやってダメだったのだ。

 もう一つが、環境の変化か、開発の成功かによって、業績が上向く場合だ。この場合、残存して応援し続けてきて、持ち株シェアばかり増えて、損害が最大化してしまったかもしれないプロジェクトが、突然一筋の光明がさし、徐々に様相が好転する。これは、応援し続けた結果、手元に増えに増えた持ち株シェアの、紙くずになりかけていた株式が、突然劇的に価値を持ち始めることに、VCも戸惑う。半分以上自分の持ち株比率になってしまった財務的にはボロボロの会社が、いきなりよみがえって希望の星のようになるケースである。そこから先は、もう一度株式上場を目指すのか、どこかにM&Aで買われるのか、換金の道を探ることになる。

D.拡大後、劇的縮小均衡

 途中までは、DeNAの創業の苦労話と同じである。創業投資をVCが行い、商品サービスを作り上げ、事業を拡大してある程度売上を確保するに至り、いったんは損益分岐点を超えたかに見えて、何年後かには上場が可能かも知れない、と監査法人を入れて証券会社とも打ち合わせに入る。ところがそれはあとから思えば幻想なのだが、VC投資も上場可能として更に複数回受けているため、事業モデルが十分な状況でないまま、会社は積極策に出る。ところが様々な理由で、事業モデルに無理がある場合が多いが、売上が継続しても、販売促進で大規模資金を投入しなければ売上拡大できず、経費を掛けに掛けて、ようやく売上は何とか成長するが、赤字の方が大きくなってしまう。資金は枯渇していくから、さらに積極的に投資を受けるか上場して公募増資するかで資金調達が必要になる。資金調達がままならなくなると、このまま継続すると事業の存続が怪しくなることが明白となる。

 この状態での役員会での判断が、非常に重要だし、難しい。上場に向かって積極的に事業を進め、人も雇っているのに、いきなり事業をリストラするのか?という話になる。すでに組織は大きくなり、上場の準備も進め、週刊誌の上場予定リストに入って、新人採用まではじめているのだ。全てがぶち壊しになって、積極策から一転、手に平を返してリストラ策を打つなど、投資家から訴えられるかもしれないリスクすら感じる。個人的にもリストラのような恨まれるようなことをしたくない。

E.VC投資の自己矛盾

 VCは、投資する時、投資契約を作成してリードをとり、株価を時価評価して将来性を加味し、高い株価で少数株主としてハンズオンで経営参画するのが一般的だ。たとえば一億円投資して、15%の持ち株シェアを持ち、社外取締役になる。さらに会社の発展とともに、他のVCが投資で株主で参加してくる。通常のVC投資は、投資資金が大きいのに、持ち株比率が低いのである。低持ち株比率のまま、社外取締役で役員会に参加していて、会社リストラの必要性を痛感したとして、意見が分かれる中で、リストラにかじを切ることが出来るだろうか?出資金は大きいので、意見を重要視はされるだろう。だが、取締役会で半数の議決権を持たず、株主総会で15%のシェアとかで、重大な議決をリードすることはできない。

 このケースでは、分かっているのに、会議にはリストラを避けられるかもしれないという異論が存在するため、撤退が遅れて対応に失敗し、破綻するという失敗の溝に落ち込むことがある。資金がいよいよ尽きてくると、リストラすらできない深刻な事態に突入する。人件費や家賃が遅配し、しかも資金調達のめどが立たなくなってくる。株主もどこも身動きが取れず資金を入れられないと、いよいよ事態はにっちもさっちもいかなくなる。最後は民事再生か、破産か、という話になる。

投資契約整備の必要性

 こうやって、VCスタートアップ投資の全てのストーリーを見てみると、これらの状況を整合する、投資契約書の整備が必要であることは明らかだ。ところが、現在の日本の投資時点における投資契約は各VCばらばらで統一性に欠く。日本におけるVC業界内での調整が極めて重要である。

著者略歴 

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合 代 表 村口和孝《むらぐち かずたか》

1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。投資先にはDeNAの他、ウォーターダイレクト社が13年3月15日東証マザーズに上場。 

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