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Vol.46【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

決定版!事業計画マニュアル「創造的混乱過程」こそ重要

(企業家倶楽部2015年12月号掲載)

事業計画BPの目的と覚悟を見失うな

 起業をする、VC投資家から出資を受けるためには事業計画を書け、と言うのは正しい。ただ世間では、あちこちで事業計画コンテストが開かれているにもかかわらず、実効性が伴わないのはなぜか。そして、実際に起業が質量ともに増え、経済発展のカギとしての期待が集まっていかないのは、なぜか。それは、事業計画が「単なるコンテストのための計画」になってしまっているからだろう。

 まずもう一度事業計画BPの目的を、本来の目的に戻して考えてみよう。第一は、経営陣が、事業実現のエコシステムを構築するべき自らの起業活動を、自らの人生の物語(Story)として、「他人に共感をもって、明示的に、経営の言葉で、最終的には短い言葉で、力強く語れるようになる」ための事業計画である。

 目的の二は、計画策定を通じて、事業の本質、および会社経営の成功を理解し、「コミュニケーション力を鍛え、達成するための合理的に一貫したアクションプランを示す」。目的の第三は、特に、作成過程の「調査、顧客・取引先へのインタビューによって、事業のエコシステムを観察し、最適化し、構築する作業による、強い実感の伴った未来への予感を得る」。それこそ、ゼロから始める構想に投資価値を生み、人や資金の経営資源を手に入れることが出来る唯一の根拠である。

 さらに、事業計画を書く前に、まず以下の十の覚悟が大前提だ。貴方はどうだろうか。

 ■ BP以前に覚悟チェック10

 ・新規事業に差し支える、健康や金銭トラブル等個人的な問題を抱えていないか

 ・事業で善事を成そう、悪いことをしないと決意しているか

 ・世の中に素晴らしい商品サービスをデビューさせる決意か

 ・結果的に、多様な顧客に素晴らしい価値を提供する決意か

 ・取引先と協力し、事業実現する決意か

 ・ひいては、歴史社会の中で、重要な貢献をしようとしているか

 ・経営者として、1・ 事業機会に挑戦し、試行錯誤して成功まで、2・ リスク管理しつつ、 自立して、忍耐する覚悟か

 ・コミュニケーションを重視し、誠実に、一貫性をもって経営を論理的に説明し、合理的に経営する覚悟か

 ・もともと規則で不完全な組織を、官僚化しおかしくせず、事業目的に照らしシンプルで柔軟で強い経営チームを作り、活力を維持し続ける覚悟か

 ・社会人(組織人でなく)として内外の変化に対して、敏感で、経営合理性を優先し、私的な立場を捨てて変更に柔軟か


事業成功の四層構造を理解せよ

 事業が成功するとは、第一層は、起業家人生の出発と成功だ。起業家自身の人生の充実なくば、企業活動の成功は成り立たない。第二層は、株式会社経営の成功だ。事業は株式会社(学校は学校法人など)経営の上に成立する。資本を集め、意思決定による経営が行われ、会計があり、分配方法が、定款によって定められる。取締役会や株主総会が定義され、法的機関として運営される。

 第三層は、事業構想の成功である。事業機会が検討され、事業が選択され、次の事業四つのエコシステムをデザインし、優れた事業計画を設計することだ。なお、事業を実現するとは、次項の「事業四つのエコシステム」を構築することと理解することが重要だ。最後第四層は、日々のオペレーション活動を成功させること。すなわち、決定されたアクションを組織的に計画予算に基づき実行する。

 ■ 事業四つのエコシステム

 1.顧客の商品使用エコシステム

  ・顧客・商品(バリュープロポジション)

  ・使用シーン・キャズム事業機会

 2.商品供給のエコシステム

  ・仕入先・サプライチェーン・在庫管理

  ・提携先、契約・取引条件・品質管理

 3.商品販売のエコシステム

  ・価格・販促・機会損失・販売、 契約、決済

  ・代理店、顧客管理、サポート

 4.資本と人材のエコシステム

  ・投資家・銀行・幹部・従業員・人事制度

事業計画BP成功への5条

①5ステップで事業計画を深めよ(いきなりSFみたいな未来計画は説得力ない)

②事業計画の前に「10の覚悟」心に入れよ

③一つの事業に決める前に、「魅力的事業構想を、最低3-5つはインタビュー作業」せよ(起業家としての柔軟性・応用力がつく)

④各事業構想を単なる紙のアイデアでなく「顧客候補、協業候補、競合候補、各最低5-50は、インタビュー」し、事業性調べ、文字に書け

⑤作業を実行後初めて、一つの成功可能性の高い事業計画にたどり着ける、と知れ

1「穴だらけ初案BP1.0」作成

 とりあえず、まずは目次を作り(経営用語と経営モデルを学ぶ)、初版を作成作業してみることである。口でああだこうだ、アイデアをわめいているだけでは駄目だ。事業ポートフォリオを、文字で書いてみよう。大ざっぱな財務予測も作成してみる。初めて、情報が不足していることに気が付くだろう。当然、ネットで検索して情報を補おうとするが、必要情報が入手可能な情報を超えていることに気付く。作業してみないと、街に出て大量なインタビューが必要であることに気が付かない。(過去事業があれば、納税申告書、試算表、ABC等現状分析資料収集が必要である。)

 次のような初期目次のフレームを作る

 ・会社のミッションは何か

 ・核となる経営チームは誰か

 ・商品サービスは何か、バリュープロポジション

 ・競合商品サービスは何か

 ・商品サービス供給体制エコシステムは何か

 ・想定している顧客は誰か

 ・市場規模はどの程度か

 ・想定している顧客のニーズと使用シーンは何か(顧客の商品使用エコシステム)

 ・想定顧客は、どうやって商品サービスを購入するか(販売エコシステム)

 ・事業立上げ日程、生産計画、販売計画、財務予測、人員計画(資本人材のエコシステム)

 アイデアだけで、ぐずぐずしていた自分にこれではだめだと、ようやく鞭が入るだろう。

2「雑草ぼうぼうBP2.0作成(創造的混乱)

 書けないことに落ち込まず、気持ちを入れ替え、初版のBP1.0は全部書き直す。つべこべ迷って時間を浪費せず、まずは、「インタビュー日程表」作成だ!具体的に行動するのだ。サラリーマンはすべて会社からの指示で仕事をしていたが、起業家は自分で作業計画を作成して、とにかく動け。半分は断られるがそれで良い。そこからが出発だ!

 参照写真、参照WEBなどのリスト作成、作業の仲間がいれば、情報共有しよう。(事業が動いていれば、ABC等顧客情報の棚卸)

 ・新商品のプロトタイプ、スケッチ画作成一か月

 ・想定顧客候補インタビュー50件一か月

 ・「販売のエコシステム」表現してみる

 ・想定取引先へインタビュー50件一か月

 ・「商品提供エコシステム」表現してみる

 ・想定競合先の情報収集一か月

 ・作業日程表作成、アポ取り

 ・インタビューメモ集をフォルダで共有、自己紹介・質問形式も進化

 つまり、この段階の事業計画BP2.0は、一か月かけて、現場情報てんこ盛り案(調べたこと全部入れる)になる。競合先の事業構想やビジョンも参考にするとよい。競合商品と比べ、何が強み弱みか、書き出してみよう。そのためにも、業界紙情報も網羅、規制の調査もする。一覧表がスプレッドシートで出来るだろう。調査結果フォルダが、共有されて充実する。正に大作業で「草ぼうぼう事状態」だ。事前の想像と実際の街の声があまりにかけ離れ、事業の組み直しが必要だということにもなるだろう。困難を極めた調査に基づく、現実的な財務予測に修正する。表現が粗削りで、的を射ていない「創造的混乱状態」と言っていい。

 副産物として、この調査作業中に、当初のチームの起業後の混乱のパターンが観察でき、お互いの作業特性の学習出来て、チームは強くなる。又は場合には、チームが離合集散することにもなる。

3「無矛盾つまらぬBP3.0」作成

 これは、草ぼうぼうの2.0を理路整然と整理して、一貫性を持たせ、綺麗にしたものだ。事業ポートフォリオ整理し、そもそも何を目指しているのか、目標整理してみるが、やや現実過ぎて面白くなくて構わない。「整合性と論理一貫性」に集中しよう。達成に向けたステップをストーリー化して説明できるようにし、使用単語を、もう一度、よく使われる経営用語や経営モデルにきちっと表現しなおし、概念チェックして、表現をキャッチなものにしよう。この段階では、まだ魅力的な発展する未来まで語り尽くせていない。ある意味、現在の延長線上の、いけていない、売上が小さい現実計画である。この作業の中で経営の不合理が明確になり、全体の大修正が必要なことが多い。つまらない計画だが、これで初めて、論理的な筋金がしっかり入った状態の計画が獲得できたのだ。

4「未来ステップアップBP4.0」作成

 論理的に筋金が入ったこじんまりした計画を、思い切り魅力的に、未来ストーリー・ステップアップ、充実・追加した案である。成長の重要指標KPIモデル、そして到達点はどこか、どうやってたどり着くのか、第一幕、第二幕?第五幕、というふうに、未来に向かった時間をドラマチックに構造化するのだ。本格的な、段階的人材強化案も盛り込むし、たどりつくまでにキャズム超えなど発展の時間概念を、盛り込む。大胆な発展案(海外展開や新事業)には、追加インタビューが必要だ。競合先の未来案・長期展望を、就職用資料等で追加調査してみると、ほほう、と気が付き、思わず参考になることもある。そもそも元から考え直し、大幅なBPシナリオの修正が必要なこともある。この過程で「新しい自分たちや事業や商品を表現する短い言葉」がいくつか発見され、自分たちの未来ビジョンに、はまった感じがするようになり、初めてミッションが明確になる。

 財務予測を、事業分類(いわゆるSBUを構成しなおす)して、ボリュームアップして完成する。先行投資に必要な資金は、大胆な投資家からの資金調達を入れたファイナンス計画を追加(未来の目標時価総額や上場予想株価も書こう)する。

5「提出用BP5.0」作成

 BP4.0は、起業家が手元で考え得る最高のフルバージョンBPで、他人に分からない。全体ストーリーに沿って、全体をスマートに、思い切りそぎ落とし、簡略化し、プレゼン用にまとめなおす。でないと短時間で忙しい人に説明出来ない。画像や、グラフ、動画なども追加、集約しよう。それを実際に、効果的プレゼンテーションとなっているか、テストしよう。家族や知り合いに聞いてもらうのだ。いけてるエグゼクティブサマリーも完成しよう。実際投資家に渡すには、印刷するか、ファイルでパスワード付なども検討する。

 デューデリジェンスDD用の別添資料編を追加し、審査ヒアリング可能先、過去の財務税務資料、会計士意見等、登記簿謄本、従業員一覧、組織図、特許知財リスト、重要契約などを添付する。

さいごに「創造的混乱過程」

 起業家なら、以上のBP策定過程を、違う構想で、五回は実行した後、起業しても遅くはない。また、引き継いだ経営者は、最低この作業プロセスを経た方が良い。ファイナンスするつもりの起業家が、このプロセスを経ないで、経験豊かな組織でやっているVCに話をもっていっても、投資を受けるのは不可能だろう。事業計画を書く人は、この多次元で多量なインタビューを行うことから来る「創造的混乱を充実させる」ことこそ、豊かな起業活動の出発点となるのだ。


著者略歴

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合 代 表 村口和孝 《むらぐち かずたか》

 1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。

 投資先にはDeNAの他、ウォーターダイレクト社が13年3月15日東証マザーズに上場。 

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