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【トピックス】旭酒造 桜井博志会長 桜井一宏社長

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

トピックス

「獺祭ブルー」がNYから上陸 

「獺祭ブルー」がNYから上陸 

旭酒造 桜井博志会長



獺祭の蔵元である旭酒造は、ニューヨーク蔵で造った「DASSAI BLUE(獺祭ブルー)」を、4月23日より、日本でも数量限定で発売した。発売に先立ち、2024年4月22日にホテルアンダーズ東京でお披露目会を開催した。獺祭の生みの親である桜井博志会長と一宏社長は、獺祭の飽くなき挑戦について熱く語った。                      (レポート三浦千佳子)


■日本での販売は"育ててもらった恩返し"
冒頭、桜井社長は「獺祭ブランドがここまで成長し、NYに酒蔵を建設するに至るまでには本当に多くの方々に応援して頂いた。今回は獺祭を育てて下さった日本の皆様への恩返しの気持ちで獺祭ブルーを国内で販売することにした」と挨拶した。今回逆輸入したのは、米国内で販売している「DASSAI BLUE Type23」(10,000円)と、「DASSAI BLUE Type50」(3,800円)の2種類。数量は2万6千本で「1カ月ぐらいでなくなるような数」とのことだ。

左から三浦氏、松藤氏、桜井社長、桜井会長、弘兼氏


■ NYに酒蔵を
そもそも旭酒造はなぜ、NYに酒蔵をつくったのか。そこには「市場拡大への挑戦」という大きな命題があった。昨今日本酒は海外でも人気で、徐々に増えてはきているが、米国のアルコール消費市場において日本酒の割合はわずか0.2%、ヨーロッパにおいては0.1%以下というのが現状。日本酒はまだ日本食のお供としてしか認知してもらえていない。そこを打破して切り込んでいくには、現地に踏み込んで食文化を一緒につくっていくことが大切、日本文化を背負って新しい文化を創っていきたいと考えたと桜井社長。

熱く語る桜井一宏社長

■ここでやるしかない!
NY蔵へのチャレンジについてもう少し説明しよう。獺祭の酒蔵をNYに建設しようと開始したのは2016年のことだ。そのきっかけとなったのは、世界最大の料理大学であるCIAからの誘いだったという。マンハッタンから北に車で2時間ほどのハイドパークに、元スーパーだった場所があるというので見に行った。緑に囲まれたその場所を見た時、桜井会長は「やるしかない!」と思ったと語る。2万坪の敷地に2000坪の建物を建設したが、中の設備は日本から運んだという。

NYハイドパークの獺祭ブルーの酒蔵

 コロナ禍で紆余曲折の末、2023年3月ようやく建物が完成した。そして酒づくりが始まった。桜井会長は自らNYに移住、酒造りの頭指揮を執った。72歳だったが「言い出しっぺの自分が行かなければ!との情熱が先だった。投資額は当初30億円の予定だったが、最終投資額85億円に膨れ上がった。 「NYでも日本と同じように朝は体操から。造り方も日本方式でやっています」と桜井会長。                                         日本からは松藤直也氏、三浦史也氏ら3人を派遣、あとは現地のスタッフを雇った。原料のコメは日本から持って行った山田錦のみを使用し、純米大吟醸の醸造を開始した。将来は米国産の山田錦を使いたいと語る桜井会長。既にアーカンソーの農家と契約栽培実験をしているという。
 
■日本の獺祭を超える
そして9月には「DASSAI BLUE獺祭ブルー」が完成した。獺祭ブルーと命名したのは、出藍の誉れ、「青は藍より出でて藍より青し」にちなみ、日本の獺祭を超えようという想いで命名したという。                                                  2023年9月23日には現地でオープニングセレモニーを開催したが、約500名が参加、獺祭の新たなる挑戦を祝ったという。獺祭ブルーは、NY州の飲食店やリカーストアで販売されている。当初はニューヨーク州だけだったが、現在は米国の他の州の販売ライセンスも獲得している。


獺祭についての漫画を執筆するなど、桜井会長と親しい漫画家の弘兼憲史氏は、この日も駆けつけ登壇した。                                                   「フレンチの巨匠ジョエル・ロブション氏は、自分が創るフランス料理には獺祭が一番合うと獺祭を絶賛していた。米国のハンバーガーにはどうかな。少し甘いかな?」など、自論を語り、獺祭ブルーの日本でのお披露目を祝った。そして自ら司会者を務め、桜井会長と獺祭談義を繰り広げた。そこには弘兼氏の溢れるほどの獺祭愛が詰め込まれており、桜井会長のチャレンジに喝采を贈った。 

桜井会長と獺祭談義をする弘兼憲史氏(右)

                                     
■獺祭ブルーは日本の獺祭より飲みやすい?
その後会場に集まった人々には、ホテル特製のフランス料理と共に獺祭ブルーがふるまわれた。気になる味わいはどうなのか? この日ふるまわれたのは、精米歩合23%の「DASSAI BLUE Type23」(10,000円)と、精米歩合50%の「DASSAI BLUE Type50」(3,800円)の2種類だ。日本の獺祭のアルコール度数16度に対して、獺祭ブルーはワインに近い14度で、アメリカ人に合わせているという。この日は幸運にも日本の獺祭と獺祭ブルーとの飲み比べができた。獺祭ブルーは雑味のないすっくきりとした味わいで、日本のよりやや甘く感じられた。

獺祭と獺祭ブルーを飲み比べ


■山口県の山奥から世界の市場へ
獺祭の故郷は山口県の山奥だ。3代目を継いだ桜井会長が、「このままでは生き残れない」と酒造りに必須の杜氏を廃止、その伝統技術をデータ化、社員の力で獺祭を創り上げた。1999年から杜氏無しの酒造りを実施してきたが「杜氏の伝統技術をそのままやっていたら今は無かった」と語る。とはいえ発酵は難しく、そう簡単に機械化できない。その手間がかかるところを人間がやってきた。そのため同社は日本一多い200名の製造スタッフを確保している。   
獺祭はかなり前から世界進出を果たしてきた。今や日本酒の輸出額では日本一となる。「大きな市場で戦わなければ生きていけないし、将来が無い。だから海外進出したのだと。           日本でマーケットシェアを取り合う勝負はやりません」ときっぱり。実際、2024年9月期の売上高予測は190億円と絶好調だ。                                   NY蔵の建設も本気で日本の食文化を世界に根付かせたいとの強い想いがあったからだ。そのために以前からNYで、一社主催による「マッハンタン酒の会」を開催してきた。会費130ドルだが約180名が参加、若い女性が多いという。

■本当に美味しい酒を目指す
酒造りに欠かせない水や米、醸造環境や造り手の技術力など、NYは日本とは異なる。しかしそこを乗り越えてうまい酒をつくろうと奮闘してきた。NYの獺祭ブルーが少し甘いのは水と酵母の働きの影響という。とにかくもっと品質を高め、もっと完成度を上げることが大切。そして試行錯誤をすることが日本の獺祭づくりにも役に立つと桜井社長。                       桜井会長も「原価をかけないと美味しい酒はできない。本当に美味しい酒を目指すことが大切」と語った。そして"日本の獺祭を超える"ことが、獺祭ブルーのテーマと強調した。

■ライバルはシャンパン
ライバルについては「他社の酒ではなく、シャンパンと」語る桜井会長。今、お祝い事など "ハレの日のお酒"としては、シャンパンが使われることが多い。そこに獺祭が斬りこもうというのだ。獺祭は食事の前半に飲んで頂きたいと桜井会長。雑味のないすっきりとした味わいが獺祭の持ち味だ。まさにシャンパンのように飲んで頂くのがピッタリということであろう。
ならばシャンパンと同じ価格でいけるということだ。「DASSAI BLUE Type23」が1万円というのも妥当であろう。獺祭にはワイングラスが良く似合う。シャンパンの一角を切り崩していきたいと語る桜井会長。酒の範疇には納まらない新たなジャンル、新たな価値を生み出していくということなのだろう。そして日本の酒ブランドとして世界一を目指すと高らかに語った。
獺祭、そして獺祭ブルーの進化はまだまだ止まらない。桜井親子の情熱、飽くなきチャレンジ精神に乾杯したい!

左桜井社長、右桜井会長

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