会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
10月21日と22日の日間、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営する㈱クラダシが主宰する「食のサステナビリティ共創・協働」フォーラムが、都内で開催された。3回目となる今年は、「企業が変える『食』の課題解決」をキーワードに、さまざまなプログラムが実施された。10以上のセッションや講演、ピッチ大会と、盛りだくさんの事例紹介や提案が熱く語られたが、その一部をご紹介しよう。
(リポート 三浦千佳子)
2024年10月22日午後13時、東京・日本橋の室町三井ホール&カンファレンスには多くの人が集まっていた。㈱クラダシが主宰する「食のサステナビリティ共創・協働」フォーラムが始まるのだ。第3回目となる今年は、味の素、キリン、ダノンジャパンなど先進企業や、この道の有識者が日本橋に集結。食のサステナビリティの最前線について語った。
冒頭、クラダシ会長の関藤竜也氏が挨拶。
「今年でこのイベントも3回目となりました。食に関わるさまざまな課題を解決し、ムーブメントを起こすには、クラダシ1社だけでは成し得ません。企業間および官民での連携や共創・協働が必要です。本日は過去最大の登壇者数となっています。皆様と共に食の未来を探求していきたいと思います。今回は同時にスタートアップ企業のピッチコンテストとクラダシチャレンジに参加した学生のピッチコンテストも実施しています。同じ想いで集まった皆様が、ネクストアクションに繋がる良い出会いとなることを願っています」
力強く宣言する関藤社長の言葉に、会場からは期待の拍手が沸き起こった。
挨拶するクラダシ関藤会長
基調講演を務めたのは、一橋ビジネススクールの名和高司氏である。名和氏は「エシックス経営~倫理を基軸としたパーパス経営の実践~」と題して熱く語った。
長くパーパス経営について説いてきた名和氏だが、パーパスは実践されなければ意味はない。額縁パーパスではなく、belief(信頼)が大切と語った。そしてルール(規則)とプリンシパル(原理)の比較について語ると、「世の中はプリンシパルに舵を切っている」と語った。
先進事例としては米国のディズニーランド、ジョンソン・アンド・ジョンソン、日本は京セラの京セラフィロソフィー、武田薬品工業のタケダイズム、花王の正道を歩む、など多彩な事例を交えた話に会場は聞き入った。
基調講演を務める名和高司氏
次はパネルディスカッションだ。「パーパス経営の実践」と題して、味の素㈱の森島千佳氏とJapan Activation Capital の磯貝友紀氏が登壇。モデレーターは名和高司氏が務め、パーパス経営について各々が実践事例を語った。
森島氏は、味の素のコーポレートスローガンとして「Eat Well ,Live Well」を掲げていること、自社のパーパス(志)としては「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」と定めている。そしてこれを実践するためにASV経営を行っていると語った。
磯貝氏からは「サステナブル活動の選択と集中」として、財務リターンにしっかりつなげるインパクトパス、「未来の稼ぐ力」の向上が大切との指摘があった。
エシカル商品については、欧州は意識が高く導入も進んでいること、中国はZ世代の関心が高いが日本は最下位に留まっていることなどの課題が指摘された。そして「安さ」は本当の価格ではなく、「true price」を考えることが重要との問題点も挙げられた。各社のパーパス経営の事例と取り組みに触れた聴衆者は、「なるほど」とばかりに静まり返った。
味の素のASV経営について説明する森島氏(中央)
続いて今年は初めて水産関係の講演が行われ、水産庁の吉川千景氏が、「水産資源の持続的利用に向けて」と題して講演。またMEL協議会会長垣添直也氏が「水産エコラベルが社会のお役に立つために」と題して講演した。農業はもとより、漁業が抱える課題にもリーチしたことからはクラダシの問題意識の広がりが伺われる。
その後「持続可能な食と農業の未来~ネイチャーポジティブの実現とリジェネラティブ農業の可能性~」と題してはキリンホールディングス㈱の志水豪氏とPwCサステナビリティ合同会社の市來南海子氏がセッションした。
続いて「サステナブルな取り組みが創るブランドストーリー」と題してパネルディスカッションが開催された。パネラーには㈱パレスホテルの柳原芙美氏と、㈱ニールズヤードレメディーズ代表梶原建二氏が登壇。モデレーターはフェアフィールド・バイ・マリオット道の駅プロジェクト社長の岡本勇治氏が務めた。
柳原氏はパレスホテルのコンセプトは「美しい国の美しい一日がある」 、サステナビリティコンセプトは「未来をもてなす」ことを行動指針としていることと語り、自社の取り組みについて語った。
また梶原氏は創業43年だが、収益を上げるよりWell-beingに、「大量より大切につくること」に注力してきた企業姿勢について語った。
自社の取り組みについて語る梶原代表(中央)
今年も「食の未来を創る:B Corp企業が語るサステナビリティとWell-being」と題したパネルディスカッションが開催された。パネラーには㈱ovgo創業者の溝渕由樹氏、ダノンジャパンの大楠絵里子氏、クラダシ中野奈緒子氏が、モデレーターはWIREDの瀧本大輔氏が務めた。B Corp取得企業について日本は46社となり、今年日本支部ができたことが報告された。B Corp取得し強い企業になったという実感はないが、改善を目指す社員がいる企業であることが大切なとど語られた。
最後は、電通の秋山隆宏氏と兼松の橋岡靖氏が「環境配慮型食材の開発・応用・販売・普及に向けたトライ&エラー~電通のクリエイティビティ×兼松のバリューチェーン」と題して講演した。
そして今回も協賛企業の取り組みの展示や情報コーナーが設置され、参加者たちを盛り上げた。中でも㈱ABCスタイルは「食を通じて世界中に喜びと感動を」をテーマに「サステナ缶」の展示と試食を行った。「サステナ缶」は排卵後の低利用魚(サクラマス母体)を活用したもので「もったいない」を減らす取り組みとしている。
協賛企業の展示スペース
「サステナ缶」を提案するABCスタイル
13時のスタートから18時すぎまで、パワフルで盛りだくさんのプログラムに、詰め掛けた参加者からは大満足の表情が見て取れた。
18時30分からは登壇者、参加者が一堂に会し、ネットワークを繰り広げた。食品関連企業の人や SDGsやサステナビリティを考える人々が集結、未来に向けてアクションを起こすことの大切さを実感させてくれる素晴らしいフォーラムであった。
今年で3回目とはいえ、食のサステナビリティをテーマに、これほどのイベントを実施したクラダシの企画力と行動力には驚くばかりだ。そして何よりもこの企画に賛同し、協力・支援する企業や団体の多さにも驚く。皆「サステナビリティ」、「パーパス経営」、「B Corp」などのキーワードを切り口に、さまざまな食の課題解決に向けた取り組みや提案を力強く発信していた。
各セッションや講演、ネットワーキングに参加した人々は、同志として互いに濃密な時間を過ごしたといえる。この「食のサステナビリティ共創・協働」フォーラムが、次年度以降もますます盛り上がることを期待したい。