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【トピックス】旭酒造 桜井博志会長 桜井一宏社長

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

トピックス

「獺祭」社名となり世界を駆ける

「獺祭」の蔵元である旭酒造(山口県岩国市)は、1月23日、社名をブランド名である「獺祭(だっさい)」に変更すると発表。併せて将来的に年間売上高1000億円を目指すと語った。都内で開催された「獺祭」経営戦略発表会で、桜井博志会長と桜井一宏社長が揃って記者会見に臨んだ。その様子をリポートしよう。 
 (三浦千佳子)

■旭酒造から株式会社獺祭に社名変更
2025年1月23日(木)午後、都内のホテルの会議室には多くの記者たちが集まっていた。旭酒造の「獺祭」経営戦略発表会が始まるのだ。会場にはざっと100人はいただろうか。最後列にはテレビ局のカメラも詰めている。何か重大発表か? 記者たちは静まり返る。

記者会見に臨む桜井博志会長と一宏社長

 14時きっかりに会長の桜井博志氏が登壇、旭酒造の歴史について語りだした。桜井会長が父親と対立、売り上げが激減。純米大吟醸を武器に東京市場で戦う決心をしたこと。「獺祭」は東京進出のためのブランドとして1990年に発売したことなど、獺祭誕生の歴史について語った。失敗の連続だったが、旭酒造を引き継いだ時1億円だった売上は、2024年度には195億円にまで成長したと感慨深く語った。
ここまできて今、私たちは何をしなければならないのか。もう一度ポジションを取り戻すために、2025年6月1日より社名を変更。新しい社名は「株式会社獺祭」(英語名:DASSAI Inc.)にすると宣言した。


ブランド名「獺祭」が社名となる
 静まり返った会場からは「おおっ」とため息が漏れる。
会社名とブランド名を同じにし、より強いブランドとして世界に出ていく。そして日本の伝統的なモノづくりを背景としたブランドとして、世界に挑み、世界のDASSAIを目指したいと高らかに宣言した。2023年9月に稼働したNYの酒蔵から見えてきた市場をより広げ、海外への浸透を加速させるために、会社名を変更、ブランドとしての認知をより強化するというのだ。
一宏社長は「世界に打って出て浸透させるためには社名とブランド名を統一させるべき判断した」と語った。そして売上目標1.000億円を目指すと宣言した。1000億円の内訳は国内300億円、海外市場700億円という。

1000億円構想を語る桜井社長


■1年間で1000回のイベントを実施

桜井一宏社長は1000億円を目指す具体的な戦略について発表した。国内については、2028年に山口県岩国市内に新たな酒蔵を建設、高級品「獺祭 磨き その先へ」以上の商品を生産。海外については2023年に稼働した米ニューヨークの酒蔵を最大限に活用して、さらなる市場拡大につなげる。
そして1年間で1000回のイベントを実施し、お客様との接点を強くすると語った。今、年間100~150回ということを考えると大変な目標だ。そこまでして獺祭の認知度を高めなければというのだ。そのために営業スタッフを増やし、実際に獺祭を飲んで頂く機会を増やすという。「いろんな方の力を借りながら獺祭の新しい市場を創っていきたい」と力強く語った。

■さまざまな場面に獺祭を展開
海外の取組みとして、2024年11月フランス・パリで三ツ星を持つヤニック・アレノ氏と一緒に、飲食店「L’IZAKAYA DASSAI Yannick Alléno」をオープン、獺祭を飲む機会を増やすという。過去にフレンチの巨匠ジョエル・ロブション氏と一緒に、パリにレストランをオープンしたが、ロブション氏の逝去とコロナ禍で閉店した。ヤニック氏はロブション氏を崇拝しており、獺祭の素晴らしさを熟知、今回「ぜひ一緒に」と申し出があったという。ヤニック氏が手がけるパリの居酒屋で、ヤニック流日本料理と獺祭がどう協奏するのか、楽しみだ。パリの獺祭フアンも切望していたことだろう。
さらにはアメリカ最大の映画の祭典、アカデミー賞に初の日本酒として協賛し、3月の授賞式で獺祭を振る舞うという。また大阪関西万博では、オーストリア館で、ウィーン・フィルハーモニック・テイストの音楽を聴かせて発酵させた獺祭を販売するという。獺祭のさまざまな展開が楽しみになってきた。

質問に答える桜井会長と一宏社長


NY酒蔵でのDassai Blueの売上は2024年424万ドル(6.6億円)、販売容量で約11万リットルと、まだまだだが、販路はニューヨークとカリフォルニアを中心に、徐々に広がっている。アメリカのアルコール市場で日本酒のシェアはたったの0.2%と桜井会長、獺祭はプレミアムラインとして、ワインやウイスキーのようにもっと飲んでもらいたいと意気込む。
最後に1000億円を目指すにあたり、桜井社長は「企業は社会と共にあるべきだと考えており、感謝の気持ちを込めて売上の1%を今後も寄付する事を継続していきたい」と語った。同社は能登半島地震の被災者に対して一社で1億円の寄付をするなど、積極的に支援しているが、これは「企業は社会と共にある」という精神に則っている。

■宇宙で獺祭づくり 
12月に発表して大変な話題となった「宇宙での獺祭作り」についても触れた。同社では国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で、酒造りに挑戦するという。2025年中に原料のコメや麴(こうじ)、酵母などを打ち上げ、宇宙空間で発酵させたうえで地球に持ち帰るというものだ。将来的に月でもと夢が膨らむが、あらゆる可能性を踏まえ、ノウハウの蓄積につなげたい考えだ。

宇宙ステーションでの酒造りに挑む(イメージ図)

宇宙で発酵させた醪(もろみ)を地球に持ち帰り、搾って清酒に仕上げる。実験用に必要な量を除き、100ミリリットル分を瓶詰めする考えで、「獺祭MOON―宇宙醸造」として1億円で販売、宇宙事業に寄付する計画という。宇宙空間で日本酒を醸造するのは世界初の試みという。「将来的には地球から送ったコメと、月にあるとされる水を使って酒造りに取り組みたいという。壮大なイメージ画面が映されると、会場からは桜井親子の果てしないチャレンジ精神に、期待のため息が漏れた。
日本酒の輸出としては「獺祭」がシェア一番だが、まだまだ数字は小さい。社名を獺祭と変更、さらなる飛躍を目指す桜井会長と社長。人々を惹きつける企画力と獺祭そのものの魅力で世界中を駆けて欲しいものだ。

「最高を超える山田錦プロジェクト」 表彰式を開催
世界で高い評価を受けている「獺祭」つくりには、最高の酒米が欠かせない。そのため「農業に夢と未来を」と考える旭酒造が「最高を超える山田錦プロジェクト」を発足、毎年優秀な農家を表彰してきた。大切なイベントで今年6回目となるが1月12日、2024年度の表彰式が開催された。
2024年度158件のエントリー中から、グランプリに輝いたのは栃木県の早乙女農場の早乙女文哉氏であった。「頑張ってきた甲斐があった努力が報われた」と喜びに輝く早乙女氏には賞金3.000万円が贈られた。

左から桜井社長、弘兼氏、グランプリに輝いた早乙女氏


■夢と希望を持てる農業を考える
 この表彰式のもう一つの目玉は、有識者によるシンポジウムである。今年は「夢と希望を持てる農業」と題して熱い意見が交わされた。登壇者は参議院議員の中田宏氏、TUNAGU Community Farm代表の林俊哉氏、KIKUCHI Art Gallery代表の菊池剛志氏、旭酒造の桜井博志会長、そして進行役は漫画家の弘兼憲史氏が務めた。
中田氏は「いい農業とは?原点回帰、プロセスがネイチャーポジティブで無ければ」と力説。菊池氏は「米、小麦、ジャガイモ、ニンジン、キャベツなど生活に欠かせない作物は国営化してはどうか?と。弘兼氏は「オランダは農業専門の大学出身者が多い。この大学には世界中から学びにきている。もっと日本の農業のイメージを変えよう」と。 桜井会長からは「農業は人間がやっているのだからワクワクしないと続かない」などさまざまな動議が出された。
毎回、短時間過ぎるのがもったいないと思うぐらい白熱した議論が交わされる。それだけ今の農業に課題を感じているのであろう。

シンポジウムで熱く意見を交わす面々


表彰式終了後は「獺祭未来へ農家と共に」で乾杯、祝宴が始まった。桜井親子の胸には、山田錦の農家と共に世界に羽ばたきたいという強い意志があったろう。桜井会長、一宏社長親子二代で挑むチャレンジ精神が、新生「株式会社獺祭」を大きく飛躍させていくことだろう。その未来に期待したい。

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