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編集長インタビュー ライドオン・エクスプレス社長 兼 CEO 江見 朗 後編

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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健全な競争がデリバリー市場を育てる 後編

(健全な競争がデリバリー市場を育てる 前編)

宅配寿司に業態変更し成長

問 現在は宅配寿司の最大手として全国でチェーン展開していますが、創業当時は寿司ではなかったのですか。

江見 日本にはお寿司屋さんが町内に1軒はありますね。同じようにアメリカにはサンドイッチ屋さんがありました。その最大手がサブウェイです。ソウルフードというか、全国民が好きな食べ物があります。思い付きで日本でサンドイッチ屋をやってみようと思い、地元の岐阜県で始めたのですが、まだサンドイッチのニーズはありませんでした。最初の数年間は何をやっても上手く行きませんでした。

 だから、お寿司に業態を変更した時は本当に楽で驚きました。商売はこんなに変わるものかという位、劇的な変化がありました。そもそも岐阜は保守的な場所ですから、新しいことは何をやっても時間が掛かります。名古屋に来たら、市場が無限大に広がったように感じました。サンドイッチはレタスやオニオン、ピクルスを入れて、ハム、ミートボールを重ねてと原価が高いのです。お寿司の方がオペレーションはシンプルで、チラシを作る工夫や組織作りも、商売が回り出すと劇的にやりやすくなりました。

問 ブレークスルーのきっかけとなったのは、宅配寿司に業態変更し、より大きな名古屋へ進出したからでしょうか。

江見 東京に来たことです。東京進出の1号店は、両国にしました。外食産業と違い、食事を届けに行きますから、私たちのビジネスは立地をそれほど問われないので、都市部と住宅部のバランスの良いエリアを選びました。2店舗目は蔵前でした。その後、新宿などに出店していきますが、1年間で200店出店しました。

 創業は副社長の松島和之と飲み屋で偶然会って、意気投合し、「一緒に何かやろう!」と勢いで始めました。最初の2年は赤字でしたから、「2店舗目を出すまでに10万年かかるね」と話していました。借金もありましたが、返済するのには1万年は掛かりそうだと思っていました。それが東京に来たら、1日で10店舗開店していましたから、劇的な環境変化でした。

問 日本で成功した宅配寿司と宅配代行ですが、今後、海外進出についてはいかがでしょうか。

江見 私はアメリカが一番可能性があると思います。それにヨーロッパもいいですね。フランスではラーメン通りが出来ているくらいですから。日本の食文化が受け入れられている証拠です。

 欧米からアジアと多くの国を視察してきました。来週はオーストラリアに行ってきます。タイやシンガポール、中国では、香港、北京、上海も見てきましたが、市場はすごく大きいし、楽しみで挑戦してみたい気持ちはあります。

 しかし、先行的な投資が非常にかかることが予想されます。投資額を回収して利益率が高ければ行くところなのですが、上場企業である以上、増収増益という流れをある程度創らないといけません。上場したらすぐ下方修正はできない。信頼をつくるという意味では今のところ増収増益でやってきましたから、じっくりと海外進出も考えたいですね。

 目先ではウーバーイーツも進出してきて、あるいは新しく「銀のさら」のロードサイド型も検討している中で、まだ国内でやるべきことをやった方が確実であり、それを積み上げたうえで海外進出した方が確実になるということで、順序良くやっていきたいと思います。

怒らない経営

問 『怒らない経営』という本を出されていますね。非常に面白いタイトルですが、その本質は何でしょうか。

江見 怒っても何の得にもなりません。それどころかデメリットの方が大きい。例えば、100という目標に対して50しか出来なかった従業員やアルバイトがいたとします。「お前、何してるんだ。馬鹿じゃないのか」と怒ったとします。よくあるパターンですよね。言われた方は、半分しか売れなかったのは事実だけれど、馬鹿じゃないかという言い方はないだろうと感情的になりますよね。すると、「店長だって先週遅刻したじゃないか」とこうなる。仕事の本質からどんどん離れていきます。

 従業員やアルバイトは入社の際に「頑張ります」と宣言して来ています。だから、頑張るのは当たり前のことなのですが、ではなぜその君が頑張れなかったのかと聞いてあげればいいのです。怒るということは自分の感情をぶつけているだけです。つまり、叱っているふりをして、騙しているのと同じことです。不満には感謝の念がありません。

 しかし、叱るというのは怒るのと違います。自分の感情や利害は横に置いておいて、相手に対してプラスになることを相手目線で理性的に話すことです。

 具体的には、サボっているバイトがいたら店長はどうすればいいか。簡単なことです。

 「どうしたんだ。入社してきた時には頑張るのが当たり前だった君が元気ないな?なんでも協力するぞ」と話を聞いてあげればいいのです。心地よく受け入れることです。

 するとその人は頑張るしかないですよね。見方によっては、サボる道を塞いで、逃げられないようにしている。怒らない経営の真髄は、仕事をする上での厳しさとも言えます。

問 なるほど、怒らないから、優しいのではなく、むしろ働くことの厳しさを教えているのですね。

江見 感情的に怒るわけではないので、反論もしづらいでしょう。人として理にかなっているのですから。私は全ての人間は組織の中で働いて成長しようとしていると思います。怒らないことが仲良しクラブになる、ぬるま湯を作るのではないかと心配される方もいます。その気持ちは分かりますが、私が怒らない経営を推奨しているのは業績を上げるために合理的だということです。

 皆が本当に望んでいることです。人間の器が大きくなりたいと願うでしょう。相手を受け入れて怒らず、優しく、目線を合わせて、楽しく仕事をした方が業績も上がりますし、ストレスも貯まらず、経済がよくなります。このやり方で弊社はちゃんと実績を出しています。正しい思考に基づいた行動をすれば正しい結果が出るのです。


p r o f i l e
江見 朗(えみ・あきら)

1960 年大阪府生まれ。岐阜県下一の高校進学にするも大学には進まず、単身渡米。寿司職人として七年半を過ごして帰国後、フードデリバリー業を開始。1998 年宅配寿司専門店創業、2001年レストラン・エクスプレス設立、代表取締役社長兼CEO就任(現任)。2013年ライドオン・エクスプレスに社名変更、同年東証マザーズ上場、2015 年東証一部への市場変更。

(企業家倶楽部2017年4月号掲載)

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